December 8, 2023 | Design | KASHIYUKA’s Shop of Japanese Arts and Crafts
日常を少し贅沢にするもの。日本の風土が感じられるもの。そんな手仕事を探して全国を巡り続ける、店主・かしゆか。今回訪ねたのは、京都の嵯峨野で活動する日本画家の工房。厄除けとしての起源も持つ「嵯峨面」と出会いました。
海、川、滝。水のある場所が好きなのは、私が辰年だからでしょうか。
「辰(龍)は龍神という水の神でもありますよね。僕が面を描く時も、水の流れを思い描いています」
来年の干支になる辰の面を眺めながら語るのは、嵯峨面作者の藤原孚石さんです。嵯峨面とは、京都の三大念仏狂言のひとつと言われる「嵯峨大念佛狂言」のお面を模した張り子面。江戸末期には厄除けのお守りとしてお寺の門前で売られましたが、昭和の初めに作り手が途絶えてしまいます。
「それを独学で研究し、復興したのが祖父の初代藤原孚石です。祖父はお多福や翁、天狗などの伝統的な面に加え、十二支を表す “干支面” も作り始めました。この時の造形をベースにしながら、二代目の父も三代目の僕も各々の個性を加え、その年、その時にしかできない面を作っているんです」
ゆえに石膏型作りから、お札を手刷りして貼り付ける工程まで、すべてが手作業。同じ辰の面でも、12年前の辰と今回の辰では色彩も表情も違います。この日はまず、石膏型に和紙を貼るところを拝見。
「古書店で探した明治時代の反古紙を使っています。楮や三椏を使った昔の和紙は、薄いのに丈夫。繊維が長くて柔軟性があるので、凹凸のある型にもなじむんです」
古い和紙に書かれているのは、古文や漢文の教科書を思い出す墨の文字。よく見ると藤原さんは、それらの紙を使い分けています。
「お多福など優しい顔の面には、柔らかな印象のかな文字が書かれた和紙を選ぶんです。面の裏側にも表情を持たせたいので」
和紙を5~6層に重ね固め、型から外して2~3日ほど天日干し。そこへ色や表情を描き入れます。
「古くから水墨画などに描かれてきた龍のイメージを、面としてどう表すか。ひと筆ずつ創り上げていく感覚が本当に楽しいです」
と、日本画家としても活躍する藤原さんならではのひと言。例えばいったん緑に塗った部分を、水を含ませた筆でなぞり、その上から青い線をシューッと引いていく。緑と青がにじみ合って、まるで水が流れているようなカッコよさ!
「見本はありません。鬚や眉など、描きながらその都度変えている部分もある。龍は誰も見たことがないから自由に創造できますしね」
姿を見た人はいないのに、いろんな土地に伝わっていて、みんなが大事に思っている。不思議で自由な龍の年が、今から楽しみです。