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隈研吾設計、歴史的建造物を改築したラグジュアリーホテルが奈良公園“内”に開業。

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November 29, 2023 | Architecture, Food, Travel | casabrutus.com

2023年8月末にオープンした〈紫翠 ラグジュアリーコレクションホテル 奈良〉は、日本有数の名勝地・奈良公園の西端、若草山のふもとに位置する。大自然の中、大正時代に建てられた歴史ある施設を、隈研吾はどのようにデザインしたのか? 詳細をレポートします。

ホテルメインエントランスの外観。

かの東大寺に隣接する場所にあり、歴史や文化に富んでいることから「歴史公園」とも称される奈良公園。2023年夏、この奈良公園内に、隈研吾設計のラグジュアリーホテル〈紫翠 ラグジュアリーコレクションホテル 奈良〉がオープンした。

この敷地は、かつて平城京遷都とともに藤原京から移設された興福寺の子院があった場所。明治期の廃仏毀釈により民間の所有となり、1919年に事業家の正法院寛之が自宅として庭園や建物を作り、1922(大正11)年に奈良県知事公舎が建てられた。

ラウンジ「寧楽」。窓にはゆらぎが愛らしい大正ガラスが使われている。

この奈良県知事公舎を、歴史的建造物としての趣を残しながらリノベーションしたのがホテルのメイン棟だ。フロントの正面には鶴や季節の木々が描かれた杉戸絵が修復されて使われ、昭和天皇が「サンフランシスコ講和条約批准書」に署名をした「御認証の間」がそのままの形で残されているなど、建物が持つ歴史の一端を感じることができる。

元は迎賓の間として使用されていたというラウンジ「寧楽」は、デザインとしての見どころがとても多い場所だ。寺院や神社、城などに取り入れられる格(ごう)天井、梁や柱が見える真壁(しんかべ)造り、印象的なモスグリーンの砂壁とカーペット敷きの床……。隈が大正期の日本家屋の美しさと、往時のモダンな華やかさを同時に残そうとしたことが感じられる。

ジュニアスイートのリビングルーム。ベッドルームとの間の壁に使用されたのは「いばら」モチーフのあしらい。

一転して、今回隈によって新設された客室棟では、現代に照準を合わせたモダンなデザインを体感できる。平均46平方メートルのゆったりした客室には、日本の伝統工芸の技術を生かしたあしらいが随所に施されている。最も印象的なのは、敷地内にある内蔵の入り口に使われていた「いばら」(曲線が交わる箇所に突点を設けた伝統的なデザイン)のモチーフを、寝室や風呂の境となる壁に使用していることだろう。外の豊かな緑が額縁のように切り取られることで美しさが際立ち、柔らかな輪郭の中で庭を見れば、よりリラックスできるように感じる。隈らしく木がふんだんに使われた空間と、部屋付きの温泉。まさに「癒し」がデザインされた場所だ。

レストラン「翠葉」の外観と庭園。

レストランは2つ。古都奈良の食文化を取り入れたレストラン「翠葉」では、フランスの三つ星レストランで研鑽を積んだ総料理長の松勢良夫が仕立てた新感覚のコースが供される。例えば奈良の郷土料理である「飛鳥鍋」や、大和橘と吉野葛を使ったにゅう麺など、地元の食材や調理法を取り入れ、フレンチの技術を使って仕上げた、ここだけでしか味わえない料理。奈良県知事公舎の客間を修復・再生した、大正期の趣を感じさせる古今融合の空間とともに楽しみたい。

内蔵を改装して作られた鮨&バー「正倉」。カウンターのみ8席。

もう一つは知事公舎の内蔵を改装した鮨&バー「正倉」。客室の「いばらアーチ」のデザインの基となった蔵の入り口をくぐると、柔らかな灯りの中に端正な杉のカウンターが浮かび上がる。分厚い土壁と高い天井、上部には通気窓を持つ、いかにも大正期の堅牢な蔵を、重厚さを残しながらシックにリノベーション。ここで食べられるのは、奈良の歴史と日本の寿司文化を新たな視点で解釈した料理だ。

ユニークなのは、「デクリネゾン」という、一つの食材を二つの調理法で食べさせる試み。例えば車海老はさっと煮られて寿司となって登場し、次にカラリと揚げられて提供される。ではウニは? 穴子は? と、次々に登場する食材を多種の調理法で食べられるのは、思いがけない楽しさだ。

旧興福寺子院「世尊院」を改修した茶寮「世世」。11時〜17時。

空き時間は大正期から残る日本庭園「吉城園(よしきえん)」を散策したり、江戸時代に建立された旧興福寺子院「世尊院」を改修した茶寮「世世」でお茶やアフタヌーンティーを楽しんだり。館内の至るところにある寺院の面影を残す意匠や建築を見て回るだけでも、一日が過ぎてしまうほど。

2015年の〈翠嵐 ラグジュアリーコレクションホテル 京都〉と2018年の〈イラフ SUI ラグジュアリーコレクションホテル 沖縄宮古〉に続き、3つ目の「翠 SUI」ブランドとして登場した〈紫翠 ラグジュアリーコレクションホテル 奈良〉。「翠」の名前の通り日本各地の美しい自然を取り入れ、土地の魅力を最大限に生かす、オリジナルの体験を提供しているブランドだ。

奈良公園の中を散策していると、いつのまにかたどり着く非日常の空間。隈研吾がデザインした「今」と「昔」を体験しに、ぜひ訪れてみてほしい。

ホテル中央にある日本庭園「吉城園」。1919年に実業家の正法院寛之が建造したことが始まり。園内は「池の庭」「苔の庭」「茶花の庭」で構成されている。

紫翠 ラグジュアリーコレクションホテル 奈良

奈良県奈良市登大路町62番地 TEL 0742 93 6511。1泊1室126,500円〜。

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