Quantcast
Channel: カーサ ブルータス Casa BRUTUS |
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2781

【本と名言365】かこさとし|「この世界は多様であり、…」

$
0
0

November 19, 2023 | Culture | casabrutus.com

これまでになかった手法で、新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。600冊以上の絵本や紙芝居をこの世に送り出した巨人・かこさとし。常に子どもの視点に立ち、子どもたちに教えてもらうという姿勢を常に崩さず、独自の作品世界を展開。子どもが熱中する物語から最新の科学を子どもたちに伝える科学絵本まで、幅広いテーマにわたり絵本を執筆した氏の作品に通底する哲学とは。

かこさとし/絵本作家

この世界は多様であり、自分はそのどこか端っこにいる。(中略)真ん中だけがエライんじゃない、端っこで一生懸命に生きているものもいるんだよ。

『からすのパンやさん』では、ずらりと並んだおいしそうなパンたちにわぁ!と驚嘆し、『だるまちゃんとてんぐちゃん』では、うちわや花、はきものの種類の多さに驚き、『地球』では、普段あまり意識しない地面の下の営みに想像を巡らせる。かこさとしの絵本は、どんな子どもたちが見ても興味をそそる何かが描いてあり、親子で読んでいる時に「どれが好き?」と対話を促す。そうした手法は、ものの見方が一つではない、さらには人間中心ではないことを、楽しみながら学ばせてくれる。

かこの絵本の醍醐味のひとつが、この「ものづくし」のページだろう。どんなに小さな人、植物、塵のような僅かな星の一つでも丁寧に描かれていることがわかる。

「僕がなぜ繰り返し「大勢」を描くのかと言えば、自分が世の中の中心だとはとても思えないからです。」

という言葉に続いて、次のように述べる。

「この世界は多様であり、自分はそのどこか端っこにいる。(中略)真ん中だけがエライんじゃない、端っこで一生懸命に生きているものもいるんだよ。」

かこの作品や姿勢は常に子どもから教わっていると、自身も強調しているが、このことも子どもから教えられたと言っている。

子どもの興味の対象は多様だ。虫が好きと言っても、全部の虫が好きなのではなく、かぶとむしやトンボ、さらにはトンボの中でもイトトンボ……と細分化していく。

「僕が絵本づくりをする時に思い浮かべるのは、そんなふうに興味の対象を追いかけるうち、世界の端っこに出てしまって、ぽつんとひとりでいる子どもの姿」だという。そして、単に端っこの方にあるバラバラな知識を提示するのではない。「この世界との有機的なつながりを説き明かして、示してあげることはできないだろうか」と、懸命に向き合い、“門外漢”だと自嘲しつつも300もの対象を科学絵本にしてきた。かこ作品から科学だけではなく、世界への扉を開けた人は枚挙にいとまがない。

かこさとしは、多くの人に惜しまれながら2018年92歳でこの世を去ったが、残された絵本はまだまだ未来を担う子どもたちに影響を与え続けるであろう。

「彼らと出会わなかったら、ぼくは絵本作家になっていなかったと思います。つまり僕こそが、子どもたちに弟子入りすることから始めたのです」。戦争、絵本、人生について。88歳の著者が人生を振り返り、尊敬してやまない子どもたちとその親に捧げるメッセージ。『未来のだるまちゃんへ』かこさとし著、文藝春秋 1,450円+税/2014年

かこ・さとし

絵本作家、児童文化研究家。1926年福井県生まれ。東京大学工学部応用化学科卒業。工学博士、技術士(化学)。大学卒業後は民間企業の研究所に勤務しながら、セツルメント活動に従事。1959年『ダムのおじさんたち』で絵本の世界へ。代表作は『からすのパンやさん』『だるまちゃんとてんぐちゃん』等、『地球』や『かわ』等の科学絵本も多数手がけ、作品点数は600点以上。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 2781

Trending Articles