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春画ドキュメンタリー『春の画 SHUNGA』。エロティシズムの先に潜む、知られざる物語とは。

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November 17, 2023 | Culture | a wall newspaper

ただの ”エロいアート” ではない春画の魅力に迫った映画『春の画 SHUNGA』が2023年11月24日より公開される。平田潤子監督に話を聞いた。

月岡雪鼎《四季画巻》(Michael Forniz)。

2015年、日本で初めて本格的な展覧会が開催され、圧倒的な熱量で迎えられた春画。明治以降長らくタブー視されていたものの、西洋を中心に評価が高まり、取り巻く環境は変化している。浮世絵研究者の石上阿希、編集者の橋本麻里、小説家の朝吹真理子など春画ファンの視点を通じて春画の魅力を紐解こうとしたのが平田潤子監督だ。

「今映画にするなら、2015年の春画需要から一歩先の見せ方をしたいと思いました。というのも、“春画はおおらかに楽しまれていた”と言われていますが、そうではない封建社会の息苦しさを感じたり、性で傷つく女性もいたはず。そんな春画の裏側まで想像できる映画にしたいと思いました」

研究は進みつつあるもののいまだ謎に包まれている部分も多い。撮影は順風満帆ではなかった。

「知られざる春画に出会いたいと持ち主の方に交渉しても、秘宝なので公開はできないと言われることも。その中で〈福岡市美術館〉でしか展示されたことのない柳川藩主立花家に伝来する《春画巻物》を公開いただけたことは大変ありがたいことでした」

編集者や作家、美術家などが集まって鑑賞する「春画ナイト」の様子。江戸時代には一人でこっそり楽しむだけでなく、大人数で賑やかに春画を鑑賞していたことがあったという。

取材を重ねて気づくことも。

「お姫様や武士といったセレブリティから町民まで、地位やジェンダーにかかわらず、みな一様に春画を楽しんでいた。それは他国のエロティックアートにはあまりない特徴で、その多様性を伝えたいと思いました。ただ、一般人が隠し持っていたものを探そうと思っても、どこにあるのか情報がない。有名絵師が贅を尽くした第一級品の作品ではなく、庶民が親しんだ“些末な春画”にようやく出会えた時はうれしかったです」

劇中では現代美術家の会田誠が、春画表現が多様に広がった背景に、“真面目に立派な絵を描かねば”といった思い込みから離れているから、と考察。横尾忠則は、生きる力と死への想像力が一つになった時、春画が生まれる、と語っている。また、絵の背景に文字で書かれた生々しい男女のやりとりもユニークだ。

春画からインスパイアされた作品でも知られる会田誠。

「何をしゃべりながら二人がまぐわっているか注目してほしい。春画は社会の価値観が変わっていく中で人々から必要とされなくなった時代があり、その歴史を辿ると、タブーとは? といった疑問が浮かび上がる。私自身、動かない絵を相手にすることに難しさも感じましたが、それ以上にそこに描かれた人間の面白さにのめり込みました。歓び、愛おしさ、間抜けさ、悲哀……人間らしさが凝縮されている春画。人間の生そのものが持つ官能性を、たっぷり味わってほしいです。絵巻物を転がしながら夢中で眺めたり、暗がりでこっそり見ていたであろう当時の鑑賞体験を再現したカメラワークにもこだわりました。映画館の大画面によって当時の感覚に少しでも近づけるのではないかと思います」

撮影を通して、春画を個人的に何枚か購入したという平田監督。

平田潤子

ひらたじゅんこ 1976年愛知県生まれ。アートをテーマにした数々のドキュメンタリー番組を制作。過去の監督作品に『ペンダントイヴ』『なにゃどやら−陸中・小子内の盆唄−』など。

『春の画 SHUNGA』

平安時代に生まれ、江戸時代に隆盛を極めた “春画” の世界に迫るアートドキュメンタリー。葛飾北斎や喜多川歌麿らなどが手がけた100点以上の作品が登場。2023年11月24日、シネスイッチ銀座ほか全国公開。映画の公開を記念した展覧会『銀座の小さな春画展』も~2023年12月17日まで銀座〈ギャラリーアートハウス〉で開催中。

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