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【おいしくて美しい“和菓子遺産”】清寿軒の小判どら焼き

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November 14, 2023 | Food, Art, Design | casabrutus.com

【新連載】作り手の丁寧な仕事が息づく、その店でしか味わい得ない和菓子。それは日本の文化であり、財産です。次世代へとこの味を伝えたい、和菓子の名作を紹介します。

・あんを“頬張る”悦びに浸る、1枚皮の個性派どら焼き。

小判どら焼き1個300円。賞味期限:4日。

文久元(1861)年、日本橋に創業し、今も変わらずこの地に店を構える〈清寿軒〉。店先には東京大空襲のなか背負って運んだという、創業時から唯一残る「くわしや(菓子や)」の看板が飾られる。

代表銘菓の「小判どら焼き」は、一度見たら忘れられない姿が特徴だ。銅板で焼き上げる皮は楕円の小判形で、1枚でそのままクルリとあんを挟む。あんは皮で覆いきれないほどボリュームがあり、マリトッツォのごとく大きな口を開けている。「小判」という名のイメージを覆す厚みと存在感…! このガブリと“頬張る”どら焼きを求め、〈清寿軒〉には連日行列が絶えないのだ。

「うちは江戸の創業時から戦前までは羊羹が中心で、どら焼きは戦後に先代が始めたもの。 “何かオリジナリティのある形を”そして “自慢の粒あんをたっぷり食べて欲しい”という思いからこの形になったんです」と7代目店主・日向野(ひがの)政治さん。

〈清寿軒〉には一般的な2枚の皮で挟む「大判どら焼き」もあるが、実はこちらの方が歴史が浅く、登場したのは30〜40年ほど前。小判はあんを楽しんでもらうため、大判は皮が好きなお客さんのために、皮を味わって欲しいと作ったという。

どら焼きの命である粒あんは、北海道十勝産小豆をとろ火で4〜5時間かけて丁寧に炊き、品のいい甘みになる白ざら糖で仕上げる。高温の銅板で火を入れてもしっとりときめ細かな皮は、純度100%のハチミツを加えているから。昔ながらの製法で、保存料、添加物も不使用。味を守る7代目の信念は、シンプルで明快だ。

「あんは“後味”。丹念に何度もアクを取ることを怠らなければ、えぐみや苦味といった味の“ヤミ”がなくなる。単に甘さを控えれば食べやすくなる訳でなく、後味がすっきりしていれば気持ちよく最後まで食べ切れます。それには良い素材を選び、全ての工程を手を抜かずにやること。仕込みで省けるものなんて無いんですよ」

確かに、〈清寿軒〉の粒あんはきちんと甘みを感じさせながらスッとキレが良く、小豆の皮の香りがふくよかに立つ。あんにしっとりと寄り添うどら焼きの皮の香ばしさも相まって、ついもう一口と食べ進んでしまう。そして完食後の充足感…。この充足感を求めて、あるいは誰かにお裾分けしたくて、多くの人々が店に並ぶのだろう。

・年に1日だけ登場する、幻の「栗蒸し羊羹」。

栗蒸し羊羹 1本2,800円。毎年、体育の日の頃1日だけ販売する(2023年は10月10日)。電話または店頭で要予約。*予約スタート時期は店舗に確認を。

もう1つ、この店にはファンが待ち望む一品がある。それが年に1日だけ登場する「栗蒸し羊羹」。9月から電話予約を始め、10月の体育の日の頃に1日限定で販売する。当日はこの“年に1度の味わい”を求める予約客で、店はひときわ盛況となる。

〈清寿軒〉の栗蒸し羊羹は、大ぶりな栗が生地が見えないほど “これでもか”とぎっしり詰まっており、小判どら焼きと同様に迫力のルックス。これもまた、あんのおいしさとともに栗を“頬張る”悦びに満ちているのだ。「栗蒸し羊羹は、どら焼きと(もう一つの名物である)栗饅頭を1年間買いに来てくれたお客さんへのお礼の気持ちのようなものです。だから手間や採算のことを考えると、1日しか作れない」と笑う日向野さん。

〈清寿軒〉で7代に渡り受け継がれているのは、こうした手を抜かない生真面目さと、お客を喜ばせたいという心意気なのだろう。

清寿軒

迫力ある筆致で「大福帳」と書かれた粋な化粧箱は〈清寿軒〉の代名詞。江戸時代に店で実際に使われていた帳簿の表紙を写したものだ。●東京都中央区日本橋掘留町1-4-16 1F TEL 03 3661 0940。9時〜17時。土曜、日曜、祝日休。

藤森陽子

ふじもり ようこ コーヒー、お茶、お酒全般をこよなく愛する嗜好系ライター。食を中心に、中でもスイーツや酒場、液体の取材多数。ホテル愛が高じてホテル取材もライフワーク。あんこは「粒あん」派です。

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