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【本と名言365】吉村順三|「建築家として、もっともうれしいときは…」

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November 13, 2023 | Culture | casabrutus.com

これまでになかった手法で、新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。住宅建築の名手として知られる建築家、吉村順三。そのシンプルで強い言葉は、建築家はもちろん、ものを作るすべての人の心に響く内容だ。

吉村順三/建築家

建築家として、もっともうれしいときは、建築ができ、そこへ人が入って、そこでいい生活がおこなわれているのを見ることである。

住宅の名手として知られる建築家、吉村順三。その言葉をまとめた書籍『建築は詩 建築家 吉村順三のことば100』は次の言葉から始まる。

「建築家として、もっともうれしいときは、建築ができ、そこへ人が入って、そこでいい生活がおこなわれているのを見ることである。」

これは吉村が1965年に『朝日ジャーナル』へ寄せた文章で、さらに次のように続く。「日暮れどき、一軒の家の前を通ったとき、家の中に明るい灯がついて、一家の楽しそうな生活が感じられるとしたら、それが建築家にとっては、もっともうれしいときなのではあるまいか」。この言葉からもわかるように吉村は常に、人を見つめて建築を作り続けた人物だ。

吉村は1908年、江戸の風情が色濃く残る東京本所の呉服商の家に生まれる。しかし1923年の関東大震災で自宅が焼失し、暮らした街も激変。その失われた街並みとフランク・ロイド・ライトの帝国ホテルの存在が、建築家を志すきっかけになったという。東京美術学校でアントニン・レーモンドと出会い、在学時から事務所に通い始め、卒業後にはスタッフに。ここで日本の伝統的な木造建築とモダニズムの融合を学んだ。さらに1938年にアメリカへ帰国するレーモンドとともに渡米し、帰国後の1941年に事務所を設立し、戦時下に設計活動を始める。

吉村は住宅以外にも数々の建築を設計しているが、その多くが日本の木造文化に根ざすヒューマンスケールを宿す。なかでもやはり住宅建築は多くの後進に影響を与え、日本の木造住宅には何かしら吉村建築からの影響を探すことができるといってもいいほど。では吉村自身が建築家として大事にしたことはなんなのだろう。『建築は詩 建築家 吉村順三のことば100』は実にシンプルな吉村の言葉が綴られる。

「建築における誠実さということは、ちょっとわかりにくいかと思うが、これは建物の目的を忠実に解決する、ということだと思う。いいかえると、建築の造形を誇張しないことである」

など、その多くは建築を知らずとも頷けるような内容ばかり。その語り口からは吉村の思い描く住まいの心地よさが伝わってくる。普遍的な言葉を用いて、普遍的な感覚を伝える。それはまさに吉村の建築にも通じるものだ。同時に本質を突いているからこそ、どんな読者の心にすっと馴染む。

吉村が遺した言葉の数々を編集し、まとめた一冊。イラストも吉村によるもの。『建築は詩 建築家 吉村順三のことば100』吉村順三建築展実行委員会編、永橋爲成監修、彰国社1,760円/2005年

よしむら・じゅんぞう

1908年東京都生まれ。東京美術学校(現東京芸術大学)建築科卒業後、レーモンド建築設計事務所入所。1941年吉村建築事務所設立。1956年国際文化会館の共同設計で日本建築学会賞受賞。1962年東京藝術大学建築科教授就任。〈奈良国立博物館〉〈八ヶ岳高原音楽堂〉などで知られる。1997年逝去。

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