October 24, 2023 | Art, Architecture, Culture | casabrutus.com
秋から冬への進行が日に日に深まるこの時期に、京都で『AMBIENT KYOTO 2023』が開催中だ。今年2回目を数えるアンビエント・ミュージックの祭典で、2ヶ所にわたってコーネリアス、バッファロー・ドーター、山本精一、そして坂本龍一 + 高谷史郎による音と映像、光のインスタレーションが展示されている。
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去年はブライアン・イーノ作品の会場だった京都中央信用金庫 旧厚生センターでは今年、コーネリアス、バッファロー・ドーター、山本精一による音+映像+光のインスタレーションが展開されている。
建物正面に掲げられたキーヴィジュアルは、シガー・ロスのアルバム『Takk…』などのアートワークを手掛けてきたアレックス・ソマーズによるもの。古い和紙に印刷された作品の質感まで再現されたそのバナーを見ながら、入口をくぐって階段をのぼり、まずは3階へ。
最奥の部屋で展開されていたのは、コーネリアスの作品《霧中夢 – Dream in the Mist –》 だ。ここでは、特殊演出による霧が時に空間全体を覆いつくし、1メートル先も見えなくなるほどの濃霧に音と光が合わさり、感覚がぐらぐらと揺さぶられる。
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同じ3階の別部屋では、2台のモニターに、バッファロー・ドーターの《ET(Densha)》と《Everything Valley》、そして山本精一による《Silhouette》がループで流れる。
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《ET(Densha)》、《Everything Valley》はともにバッファロー・ドーターの最新アルバム『We Are The Times』(2021年)に収録された曲だが、前者には映像・音響アーティストの黒川良一、そして後者にはモーション・グラフィックでも有名な映像作家の住吉清隆による映像が付加され、体感可能の立体的な作品となっている。
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山本精一の《Silhouette》は、本展のために書き下ろされた新曲。あいまって流れる映像は、照明光を投射したリキット・ライティングの手法を用いた作品で、ヴィジュアル・アーティスト仙石彬人との共同制作によるもの。最初、流れていることすら気づかないような微かな動きにはじまる映像作品が、曲の雰囲気にあいまってアンビエントな空間をつくりだす。
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建物の2階に移動するとそこには、グルーヴィジョンズによる映像をともなうコーネリアスの作品《TOO PURE》が。草花や鳥などが舞う映像と音楽が相まって、いつまででも眺めていたくなるようなポップで楽しい視聴覚体験を生み出している。
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最後となる1階の展示室でも、コーネリアスの作品が待っている。その作品《QUANTUM GHOSTS》は、360度に配置された20台(!)ものスピーカーから鳴らされる立体音響がとにかく白眉だ。そこに高田政義による照明が、時に瞬き時に流れて音楽と同期。踊り出したくなるようなポップな空間を創出している。
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ところでこの建物では、全体に漂う、控えめながら明らかに意図された”香り”にも気づいてほしいところ。それを手がけるのは、「感覚の蘇生」をテーマに香りと音を芸術表現に用いるアーティストの和泉侃。つまりこの香りもまた、アンビエントを体感するための重要な”作品”なのだ。
加えて、会場ではないところでも音楽は流れており、こちらにも耳を澄ませたいところ。ちなみにその曲は、本展用に書き下ろされたコーネリアスの新曲《Loo》である。
さて、〈京都中央信用金庫 旧厚生センター〉を出たら、地下鉄で移動。今年新たに設けられた展示会場の〈京都新聞ビル〉へ向かう。丸太町駅からすぐにある同ビルの地下1階、約1,000平米の工場跡地では、今年惜しくも亡くなった坂本龍一と高谷史郎とのコラボレーション作品《async – immersion 2023》が体感できる。
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ここでの作品は、坂本が8年ぶりにリリースした2017年のアルバム『async』を基盤に、高谷とともに制作した最新版であり、『async』は、リリースの3年ほど前にほぼ完成までさせていたにもかかわらず、中咽頭癌を患う経験を経た坂本が、スケッチなどをすべて廃棄して再度作り直したという渾身のアルバムだ。
初コラボ作品となった1999年のオペラ《LIFE》以来、20年以上も作品制作を重ねてきた坂本と高谷。今作ではそこにZAKが参画して音響を手がけているのだが、その立体音響の効果により、会場のどこに立っていても、音がどこからともなくやってきて身体全体を包み込む。加えて、幅26.4mの超巨大LEDパネルに流れる映像は、リアル空間と作品との境を曖昧にする。
そんなふうに全方位からくる作品を受け止めながら呆然と佇んでいるうち、自分が聞いているのは、映像から発せられる音やノイズなのか、はたまた坂本による”音楽”なのか、そして見ている映像は現実なのか幻影なのか、すべてがあやふやになるような頼りなささえ覚えてくる。
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今回、2会場をまわって、音と光、映像や香りとさまざまな感覚に包まれたアンビエント体験を経たことで、逆にアンビエント・ミュージックとはなんぞやという疑問が頭をもたげてきた。
それは決して、きれいな音や美しい旋律に彩られた癒しの音楽ではなく、そもそも音楽のいちジャンルでさえないかもしれない。
泣けるでしょ、元気出るでしょと気持ちを押し付けてくる音楽の対極にあり、自分でも気づかずにいた感情や感覚を、遠いところから引き寄せてくれるもの。ノイズや爆音も含めた音のなかに見い出される音楽のようなもの。それが、アンビエントなのかも……などと、ぐるぐる思考を巡らす楽しさもまた、この展覧会で得た豊かな体験だ。