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鎌倉・由比ガ浜通り。伝説のバーがまた開きます。

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November 16, 2016 | Architecture | a wall newspaper | photo_Kozo Takayama text_Junko Koshima editor_Akio Mitomi

2階にラウンジを加え、〈THE BANK〉が復活! 故・渡邊かをるの美意識に満ちた大人のバーが、ワンダーウォールの運営で再オープンしました。

街のシンボル的存在〈THE BANK〉。一時閉じていたバーの内装を再生・更新し、復活させたのは片山正通(写真)。耐震補強を施した建物に再び灯台のように光がともる。
10月22日、鎌倉・由比ガ浜の伝説的なバー〈THE BANK〉に、再び温かな明かりがともされた。元のオーナー故・渡邊かをるの遺志を継いで運営するのは、親交の深かった片山正通率いるワンダーウォール。片山にとっても思い入れ深いこの場所が、新しい一面を加えて、伝説を更新すべく再オープンを果たした。

まるでNYの街角のように、三角コーナーに重々しく、そして美しく佇む石張りの建物。1927年に〈鎌倉銀行由比ヶ浜出張所〉として建てられた正真正銘の銀行ビルだ。渡邊は〈ヴァンヂャケット〉でアートディレクターを務めた後も、ファッションはもとより陶磁器、英国骨董など、“良いモノ”を深く知る斯界の大御所だった。その渡邊がここにバーをオープンするにあたり、インテリアデザインを任せたのが片山だった。

「当時ワンダーウォールを34歳で立ち上げたばかりで、これが最初の仕事でした。出会ったのは僕が20代半ばのころ。以来、何かと気にかけてもらい、プライベートでも親しくさせていただきました」

2人はレトロな建物の時間を遡るような空間を構想。銀行の大理石カウンターはそのまま生かし、アールデコ調のシャンデリアを吊り、オリジナルの家具を配し、おいしいお酒を並べた。心地よい明るさと、時空を超えるゆったりとした時間。鎌倉らしく文化人やクリエイターがグラスを傾けるその横で、近所の店主が今日の一杯に疲れを癒す。かっこいいのに気取らない。粋で知られた渡邊の美学を映した、懐の深い、本物の大人のバー〈THE BANK〉。しかし昨年渡邊が逝去すると、惜しまれながら店を閉じた。
ラウンジにはテーブル席とソファ席。スピーカー《JBLミニゴン》の上には、現在の音響アドバイザーであるサカナクション・山口一郎寄贈のアンプも。
扉をくぐると、異空間に紛れ込んだかのように落ち着いた時が流れ、自分の美学を持った“まぶしい大人たち”が美酒を交わす。そんな雰囲気がたまらなく素敵。
渡邊が大切にした場所を受け継ぎたい——片山がそう思い至ったとき、店にはすでに家具もなかった。建物の所有者に連絡をとること約10回。ようやく借用の承諾を得たとき、思いがけないことを知る。「ちゃんとした志を持った人が現れたときには、家具をお戻ししたい」と、すぐ裏の古道具屋が保管しておいてくれたのだ。

そんな思いに助けられ、1階は渡邊の美学を残して、レストアしながら空間を再現。座面を張り替えたスツールも、コートラックも以前のものだ。一方、かつて倉庫だった2階は、新たにラウンジスペースとなり、ゆくゆくは食事も提供したいという。「壁や窓枠の色は、“かをるさんならどう思うかな”と何度も考えて選びました」と片山。フィン・ユールやアーコールなどのヴィンテージ家具と60年代初頭のスピーカー《JBLミニゴン》、五木田智央のアート作品が共存する2階は、片山らしい居心地のいい空間だ。

店を切り盛りするのは鎌倉をよく知る若い2人で、蘇った建物に活気を吹き込む。再びご近所の店主が集い、これからは若い客も増えるだろう。伝説は、また始まる。
デザイン料は“キリーウォッチ”!
〈THE BANK〉の設計料を拒む片山に、「欲しいものを言え」という渡邊。断るために、あえて渡邊愛用の腕時計を指差したら、一瞬もためらわず渡してくれたのが、稀少な《ロレックス オイスター クロノグラフ》通称“キリーウォッチ”。そのダンディズムに感服!

〈THE BANK〉

マスターは鎌倉のレストラン&バーで経験を積んだ野澤昌平、フードは葉山出身の荒井恵美が担当。
神奈川県鎌倉市由比ガ浜3-1-1
TEL 0467 40 5090。17時〜翌1時(土・日・祝15時〜)。月曜・火曜休。

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