November 11, 2016 | Design, Architecture | casabrutus.com | photo_Shin-ichi Yokoyama
text_Hisashi Ikai
editor_Keiko Kusano
フランス大使公邸を会場に『the CONSTRUCTOR ジャン・プルーヴェ:組立と解体のデザイン』展が3日間限定で開催された。
大使公邸の中庭に登場したプレハブ住宅《F 8×8 BCC 組立住宅》。
パリのデザインギャラリー、パトリック・セガンとプルーヴェ・コレクターとして知られる前澤友作(現代芸術振興財団会長、ZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイ代表)とがタッグを組み、両者が保有する貴重なジャン・プルーヴェのコレクション70点あまりが展示された。
プレハブ工法で機能的に製造できるだけでなく、組み立ても人力だけで可能というのも驚きだ。
会場となったフランス大使公邸の1階サロンには、もっとも意欲的に活動した1930〜60年代の数々の家具、構造体、図面などを展示。そして圧巻だったのが、中庭に展示されていた《F 8×8 BCC 組立住宅》だ。第二次世界大戦中だった1941〜43年にかけてプルーヴェがピエール・ジャンヌレと協働した木造のプレハブ住宅で、世界にわずか2点しか現存しないという超レアな作品であるとともに、戦火で材料も乏しいなかで、いかにプルーヴェが日々の暮らしを豊かにしようととしていたかがうかがえる貴重な資料だ。
プレハブ住宅の内部。コンパス状の巨大なポルティーク構造が建物を支える。
「これを見るだけでも、いかにジャン・プルーヴェが先見の明を持ち、また寛大なヒューマニストであったかを知ることができます。また、これをベースに、その後プルーヴェはフランス政府の復興政策のために多くの住宅や教育施設を手がけるなど、厳しい時代に生きる人々の暮らしを底辺から支えていったのです」
社会の本質的なニーズに根ざしていたからこそ、プルーヴェのデザイン思想は時代や地域を超え、多くの人を魅了し続ける。30年以上にわたりプルーヴェの作品を見つめてきたパトリック・セガンは、その人気の理由をこのように語る。
プレハブ住宅内部より。プルーヴェの椅子に、ピエール・ジャンヌレのテーブルとセルジュ・ムイユのランプを合わせ、その脇にシャルロット・ペリアンのスツールを置いている。
さらに、展示されている一連の家具や建具、構造物などを眺めていると、そこに一連の関係性を見いだすことができるとセガンは言葉を続ける。
「プルーヴェはある構造体の仕組みを見つけると、それから次々に新たなプロダクトの形を発見していきます。これこそが、自身のことを『Constructeur(=建設家)』といったゆえんでもあるでしょう」
建設家・ジャン・プルーヴェの代名詞でもあった、さまざまなポルティーク構造体。
1951年にデザインされたゲリドン“カフェテリア”組立テーブル。
“建設家”というのは耳馴染みがないかもしれないが、言わば施工そのものから請け負う人のこと。工房で日々試行錯誤を続けながら、実際に手を動かし、機械を調整しながら、新しい形を生み出していく。実践のもとで生まれるデザインだからこそ、ほかのデザイナーとは一線を画する、独自の形状や仕組みをつくり出すことができたのだろう。
まるで額に飾られたように並べられた椅子は、1930〜50年代にデザインされたもの。
メトロポールNo.305。1953年頃に製作された。
そして、会場がフランス大使公邸になったことも、わずかながらジャン・プルーヴェと関わりがあるという。
「実は旧大使公邸をジャン・デマレとともに設計したジョゼフ・ベルモンは、プルーヴェに師事した経験を持つ建築家であり、プルーヴェが非常に親しくしていた人物なんです。運命的な巡り合わせのような感じがしますよね」
日本式庭園を臨むサロンでは、ゆとりのある展示が行われた。
セガンいわく、今回展示した作品は、ほかではなかなか見られない希少価値の高いものばかり。当初2日間700名限定の公開予定だったが、予約が殺到したため、急遽開催を1日延長。未だに日本でもプルーヴェが高い人気を維持しているのを証明するイベントとなった。
「大使公邸という特別な場所で、本展が開催できたのは嬉しい」と、パトリック・セガン。
the CONSTRUCTOR ジャン・プルーヴェ:組立と解体のデザイン
〈フランス大使公邸〉東京都港区南麻布4-11-44。10月22日〜24日。10時〜17時。入場無料。