October 13, 2023 | Culture, Architecture, Design | casabrutus.com
建築、インテリアデザインの分野で活躍し、北欧デザインを代表する1人であるアルヴァ・アアルト。彼が歩んだ78年の生涯を、各年代の代表作や象徴的な出来事とともに振り返る映画『アアルト』が公開となる。
《スツール 60》やアアルトベースといった名作家具・プロダクト、〈パイミオのサナトリム〉やレストラン〈サヴォイ〉といった建築群など、今なお世界中の人々を魅了する数多くの作品を手がけたアルヴァ・アアルト。生誕125周年にあたる2023年、彼の生涯に迫る1本の映画が公開になる。
映画『アアルト』では、アルヴァと最初の妻であり制作におけるパートナーであるアイノ・アアルトの出会いから始まり、初期の名作建築の設計、〈アルテック〉の設立、アメリカでの成功、そしてアイノとの死別から、2人目の妻であるエリッサとの出会い、晩年の作品に至るまで、時系列にその歩みを追っていく。
〈パイミオのサナトリム〉やマサチューセッツ工科大学(MIT)の学生寮などの代表作は空撮で映し出され、通常は見られない細部も含めその全貌を知ることができる。また当時の図面や写真が映し出されながら、建築家や建築学の教授などの解説が入ることで、その建築的な魅力をしっかりと伝えており、アアルト作品を学ぶ良い機会にもなっている。
しかし映画を通して最も印象的に残るのは、アルヴァとアイノが手紙などで互いに送った言葉の数々だ。「僕らのチームはこの世で何よりすばらしい」「あなたにゾッコンだからって驕らないで」など、それぞれにあてられた言葉からは、誰も入ることのできない2人の深い絆と愛情を垣間見ることができる。社交的で楽天家であるアルヴァと、実直で家族とブランドのデザインを支えたアイノ。そうした対照的な2人のパーソナリティも、映画を通して伝わってくる。
他にも2度にわたり従軍したエピソードや、飲酒に関する問題など、アルヴァの個人的なエピソードからは、これまであまり知られてこなかったであろう彼の一面を知ることができる。
晩年には国内で保守的な建築家として批判の対象にあったことも語られているが、死の直前まで活動を続けたその生涯からは、20世紀を代表する建築家/デザイナーの1人であるアルヴァ・アアルトの、いつの時代も人間を中心に考えながら創作に向き合ったその真摯な姿勢を感じ取ることができる。アニバーサリーイヤーの今年、ぜひ見ておきたい1本だ。