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【本と名言365】アレキサンダー・ジラード|「フォークアートは『外国人』など…」

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October 4, 2023 | Culture | casabrutus.com

これまでになかった手法で、新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。ミッドセンチュリーモダンの代表的なデザイナー、建築家であり、フォークアートの蒐集家でもあったアレキサンダー・ジラードが民芸品に込めた思いとは。

フォークアートは『外国人』などいないと教えてくれる。

大胆な色使いと遊び心のあるグラフィック、モダンな中にもどこか土着的な落ち着きが感じられるデザイン。アレキサンダー・ジラードは、チャールズ&レイ・イームズやジョージ・ネルソンと並び、1920年代後半から70年代後半のアメリカにおける建築やテキスタイル等のデザインを手掛け、後世にも多大な影響を与えているデザイナーの一人だ。

彼のデザインを語る上で「フォークアート」は欠かせない要素である。英国で建築とインテリアを学んだジラードは、1932年にニューヨークに事務所を開き、キャリアをスタート。ミシガン州のグロスポイントへと事務所を移転した1940年代は、インテリアやオフィスの仕事に加えギャラリー兼ショップをオープンし、毎月企画展を行った。当時のモダンデザインでは、それまでの土着的、民芸的な手仕事要素を廃し、機械的で感情を排したものが新しいものだとされていたが、ジラードの考え方は違った。初期の仕事であるギャラリーでも、メキシコで大量に購入してきたフォークアートを展示したり、フォークアートから着想を得て自身が作成したオリジナルオブジェの販売も行っていた。後の、〈ラ・フォンダ・デル・ソル〉(1960年)やテキスタイルデザインの仕事に見られるカラフルな色彩と少し武骨だが愛らしくユーモア溢れる造形は、世界中のフォークアートが着想のもとになっている。

ジラードがフォークアートの収集を始めるきかっけになったのは、妻スーザンとの新婚旅行で出かけたメキシコだ。鮮やかな色彩と素朴なフォルムの民芸品たちに魅せられ、夢中になって集めたという。1941年に建てた自邸でもフォークアートは必要不可欠な存在を担っている。そして、彼はオブジェクトを“並べて見せる”ことにも心血を注いだ。

「オブジェクトを彼らの世界に置いてあげるとすべてが呼吸し始めると信じている。展示物は生き生きとし、そこは劇場になる」。1968年に手掛けた世界博覧会HemisFair ‘68で展示「The Magic of a People」を手掛けた際にそう語っている。彼は収集したものを、そのものにふさわしいシーンで展示することを常に考えていた。

ジラードは世界各地に旅行に行くたびにフォークアートを集め続け、その数は10万点にものぼった。1978年にサンタフェにあるフォークアートミュージアムにコレクションは寄贈され、そのコレクションを生き生きと見せるための場所「ジラードウィング」を設計、大量のオブジェクトたちは居場所を見つけたのだ。

「最初に来るのはオブジェクトへの愛、収集するためのほかの基準は全くありません」

ジラードはコレクションについて聞かれた時にこう応えていたという。市場的価値など問題ない、すべてのものは等しく愛おしい。名言の言葉にもあるが、彼は世界全体の姿を知ることの重要性をよく口にしていたという。フォークアートとは、ジラードにとって世界の異なる文化を知り、言語や肌の色を超えて異なる国々の人たちと繋がる手段でもあったのだ。自宅でもモダン家具と民俗人形を並列で扱い、展示の際も異なる文化のものを一つのテーマで混在させて展示していた。

アレキサンダー・ジラードが手がけたテキスタイル、グラフィック、イラスト、家具、インテリア、製品、建物のすべてを網羅した672ページ、約1.5kgに及ぶ作品集。『Alexander Girard』トッド・オールダム、キエラ・コフィー編/2014年

アレキサンダー・ジラード

アメリカ人の母とフランス系イタリア人の父の間にニューヨークで生まれ、イタリアのフィレンツェで育ち、ローマの王立建築学校を卒業。テキスタイルデザイン、グラフィックデザイン、タイポグラフィ、イラストレーション、家具デザイン、インテリアデザイン、プロダクトデザイン、展示デザイン、建築など、さまざまな分野で活躍した20世紀半ばの傑出したデザイナー。代表作にハーマンミラーのテキスタイル、サンタフェの〈インターナショナル・フォーク・アート・ミュージアム〉など多数。現在でも彼が手がけたプロダクトはヴィトラで購入できる。

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