September 28, 2023 | Fashion | casabrutus.com
〈アーツ&サイエンス〉とイタリアのブランド〈ザニーニ〉によるコラボレーションコレクションから、今シーズンのアイテムが届いた。ものづくりの哲学を共有する両者による幸福なコラボは、いかにして生まれるのか。来日をはたした〈ザニーニ〉のデザイナー、マルコ・ザニーニに話を聞いた。
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肌触りのいい上質な生地をオリジナルで生産し、タイムレスな衣服を仕立てる〈アーツ&サイエンス〉。彼らは2022年秋冬から、デザイナーのマルコ・ザニーニが手がけるブランド〈ザニーニ〉とのコラボレーションコレクション〈ザニーニ・ウィズ・アーツ&サイエンス〉を展開している。今シーズンははじめてユニセックスアイテムが登場し、性別にとらわれない新たな表現が加わった。ものづくりの哲学や姿勢をともにする両者のコラボレーションは、どのように発展を見せているのか。今シーズンのアイテムの発表にあわせて来日したザニーニを訪ねた。
「私は独立するまで大きなメゾンでクリエイティブディレクターを務めていました。そこでの仕事はあまりに時間の流れが速く、もっとじっくりものづくりに向き合いたいと考えるようになりました。私がものづくりで最も大切にするのは品質。そのためには時間をじっくりかけ、ディテールを大切にしたい。細かな仕事を望むようになりました」(ザニーニ)
そう独立の経緯を振り返るザニーニ。独立を果たした彼は、初のコレクションの招待状を〈アーツ&サイエンス〉のオーナーでクリエイティブディレクターを務めるソニア パークに送る。
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「私と〈アーツ&サイエンス〉の出会いは偶然によるものです。パリファッションウィークの期間に、〈アーツ&サイエンス〉がパリ市内に出店していたポップアップストアの前をたまたま通りかかり、そこでウインドウにかかる一枚の白いシャツに目を奪われたのが始まりです。
ブランドを調べるうちにソニアさんを知り、それからは東京を訪れるたびに店へ立ち寄りました。店内に置かれるすべてのものがこだわりをもって選ばれていることにいつも感動を覚えるのです。唯一無二の存在であるソニアさんに心惹かれ、私はインビテーションを送りました」(ザニーニ)
この案内をきっかけに両者の交流は始まった。〈アーツ&サイエンス〉は〈ザニーニ〉をデビューコレクションから扱い続けてきた。ザニーニはこう語る。
「私たちの関係はいまに始まったものではなく、時間を重ねています。だからこそ、とても自然な形でコラボレーションにつながりました」(ザニーニ)
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ザニーニにとって〈アーツ&サイエンス〉は、「ファッションを超えてスタイルを提案するブランド」だそう。だからこそこのコラボレーションは、ザニーニがもつクリエイションの経験と能力、〈アーツ&サイエンス〉の専門的な視点と才能が組み合わさったのだという。〈ザニーニ〉は生地製造からイタリアで行うが、コラボレーションコレクションはすべて〈アーツ&サイエンス〉の手がける日本製の生地で表現される。デザインやディテールはザニーニによるものだが、日本人の体型に合わせて細かな調整が入ったフィッティングのパターンをはじめとする生産工程はすべて日本で行った。
「いずれのコラボレーションアイテムも、互いの領域への尊敬、そして日本とヨーロッパの感性が混じり合うことで生まれたものです。服を仕立てる長いプロセスにおいてはどの段階も重要ですが、料理人が素材にこだわるように、私もまずは生地の選定に時間をかけます。もともと私は日本の生地が好きなのですが、〈アーツ&サイエンス〉とのものづくりのたびに、ここには宝の山があると感じます。クオリティ、肌触り、いずれをとっても実に優れている。
コラボレーションを始めるにあたってまず生地に触れ、これはいいものになるという確信があったことをよく覚えています。たとえばカシミヤの糸が使われた生地は、これまでに見たことのない手法で作られていました。経験上、多くの生地を見ている私にとっても日本で生産される〈アーツ&サイエンス〉の生地には毎回学びがあります。デザイナーとして選択肢が多いことはこのうえないよろこびです」
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ザニーニが感じたよろこびは、もちろんすべての衣服に表現されている。たとえばカシミヤを使ったジャケットのインナーにはとろけるような肌触りのシルクを使う。同じようにツイードのコートやジャケットには、袖口、ポケットのフラップや襟の裏側にカシミヤ製のコーデュロイを用いた。いずれもシルエットは美しく、軽やかで、実に肌触りがいい。
「これらは隠された贅沢であり、私的な愉しみといえるもの。生地のすべてが私の創作に刺激を与えてくれますし、それらの適した使い方は経験から感覚的に察知できます。カシミヤのジャケットにはダウンの中綿を入れ、よりふんわりと。花柄のリネンシャツ(完売)はプリーツでボリュームを出すとともに、柄に動きをもたせています。これらの衣服は誰かのためではなく、自分のためにある衣服といえるでしょう」
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そして、この秋冬のコレクションでは新たな試みも行った。それはさまざまな職業の人にコラボレーションアイテムを着用してもらい、それぞれに縁のある場で撮影するというもの。写真家の平野太呂による写真は、〈ザニーニ・ウィズ・アーツ&サイエンス〉のもつ奥行きをより魅力的に伝えるものだ。これは2022年の秋、京都を訪れたザニーニがひとりの花屋と出会ったことから生まれたものだという。
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「写真のキュレーションはもちろんソニアさんによるものです。なぜなら彼女以上に優れた編集者はいませんから。私たちは幾度となくこのコラボレーションについて語らいました。写真に登場する人々はとても雰囲気が良く、リアルな空気感を伝えます。着用されるまでが衣服にとってのクリエイティブですから、私にとって今回の表現はとても大切なものとなりました。幅広い年齢と職業、異なる背景をもつ人々。それは同時にブランドがもつ多様性をも伝えるものです」
ザニーニが描いた上質でいて日常を豊かにするリアルクローズ。その本質は手に触れ、身にまとうことで真価を発揮する。まずは店頭を訪れ、その魅力を体験してほしい。
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