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【本と名言365】アルベルト・ジャコメッティ|「全部こわす。前進すればするほど…」

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September 26, 2023 | Culture | casabrutus.com

これまでになかった手法で、新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。まるで針金のように極端に細長い人物彫刻で知られるアルベルト・ジャコメッティ。20世紀を代表する彫刻家がたどり着いた境地に迫る。

アルベルト・ジャコメッティ/彫刻家

全部こわす。前進すればするほど完全にこわすようになる、こわすことを恐れなくなる。これが進歩だ、そしてすぐに再び建築できるようになる。

針金のように細く縦に引き伸ばされたボディで知られるアルベルト・ジャコメッティの彫像。極力余分なものを削ぎ落としたシルエットでありながら、鑑賞者の目を奪う不思議な魅力を放つ。一見、人間の姿から離れているように感じられるが、ジャコメッティにとっては単に自分が観察したものを表現しただけであり、無駄なものをすべて剥ぎ取ることで、本質のみを表現しようとした姿勢の表れでもあった。

キュビズム、シュルレアリスムを経て、主に人物像を対象に制作。その過程は試行錯誤の連続であり、その粘り強さこそが作品の魅力を形成した。モデルを複数回にわたって観察し、デッサンを重ねる。それによって人物の内面的な特性を引き出すことを試みたのだ。ジャコメッティの作品でモデルを務めた日本の哲学者・矢内原伊作の著書『ジャコメッティ』では、デッサン中の様子を微細に伝えている。複数回にわたってデッサンを行うジャコメッティはなかなか「これこそ正しい」という姿を見出すことはできない。試作と破壊の反復、可能と不可能の行き来、希望と絶望が交互に膨れ上がる。ジャコメッティにとって「描い続けるということは、消し続けることを意味する」ことだと矢内原は記している。

デッサンを元にした彫像を見ると、手で粘土をつけては取り除き、ナイフで削るなどした形跡が感じられる。そうした深い洞察によって形成されたジャコメッティの芸術的独自性は今なお多くの人に感銘を与えている。

日本の哲学者である矢内原伊作が、ジャコメッティの作品のモデルとして共に過ごした濃密な時間を記した一冊。対話を忠実に記録するほか、。矢内原に宛てた手紙も収録されている。『ジャコメッティ 矢内原伊作』宇佐美英治 武田昭彦・編 みすず書房 5400円 / 1996年

アルベルト・ジャコメッティ

1901年スイス生まれ。彫刻家。絵画や版画家としても知られる。ジュネーヴの美術学校に入学し、その後パリへ移住。キュビズムやシュレアリスムなどの芸術様式の影響を受けつつ、30年代より具像彫刻に取り組む。体を細長く引き伸ばしたブロンズ彫刻を発表し、独自の表現世界を確立。1966年死去。

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