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緑深い箱根の森で見る、「日本画」を受け継ぐ現代アート。

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September 25, 2023 | Art

「日本画」という言葉が生まれたのは明治になってから。その日本画がどう進化してきたのかを検証する展覧会が開かれています。出品者の一人で7月に公開制作を行った山本基に聞きました。

7月末、展示室で公開制作を行った山本基(やまもと もとい)。1966年広島県出身。塩によるインスタレーションや、迷宮や渦巻きをモチーフにしたドローイングを制作。主な個展に「「山本基しろきもりへ─現世の杜・常世の杜─」(彫刻の森美術館、2011年)など。『奥能登国際芸術祭2023』では前回に引き続き《記憶への回廊》(2021年)を展示。

明治政府のお雇い外国人であり、東京美術学校(東京藝術大学美術学部の前身)の設立にも関わったアーネスト・フェノロサは日本で見た絵画を「ジャパニーズ・ペインティング」と呼んだ。その和訳が「日本画」だ。

9月1日まで展示されていた山本基《時を纏う》(2022年)。金屏風に載せられた青と白が波のしぶきのようにも見える。

以来約150年、「日本画」はさまざまに進化してきた。〈ポーラ美術館〉で開かれている『シン・ジャパニーズ・ペインティング 革新の日本画』展は明治以降の日本画と、その遺伝子を受け継ぐアーティストの作品を対置するもの。日本画の流れを概観するとともに、あらためて「日本画とは何か」を問う。

展覧会は5章構成。現代の作家を集めた第4章には三瀬夏之介、杉本博司、蔡國強ら主に戦後生まれの作家が登場する。そのうちの一人、山本基は塩を主要な素材の一つとする作家だ。ジェットオイラー(油さし)に入れた塩を振り出して、迷宮や波のしぶきのような模様を描く。今回の展示作品は渦巻きがモチーフになっている。

「私がこういった作品を作るようになったのは若くして亡くなった妹がきっかけでした。妹とは仲がよくて、冷蔵庫にしまっておいたプリン食べちゃったでしょ、とか、ちょっとした勘違いで笑ったりしていた。そんな日常の積み重ねがその人との関係を作っていくのだと思う。渦巻きは一つ一つが大きな思い出ではなく、ささいな記憶や見逃してしまうかもしれない日常の連なりなんです」

山本基が公開制作した《たゆたう庭》(2023年)部分。丸い鏡の上に、塩による渦巻きが寄せては返す波のように描かれる。

塩を使うようになったのは法要での清めの塩からヒントを得たもの。この塩による作品には、迷宮や蝶を描いたものもある。

「思い出ともう一度出会いたい。大切な人との思い出を忘れないためにつくっています」

山本基《時を纏う》(2023年)。青は空の色でもあり、海の色でもある。

近年の山本の作品では吸い込まれるような青の色が印象的だ。

「数年前に妻が病気で亡くなる前、娘に『お母さんは空の上にいるからね』というメッセージを残していった。青はその空の色です」

展覧会期間中の特別ドリンク「Blue Harmony」850円(税込)。山本基《時を纏う》をイメージした。ブルーキュラソーとライチのシロップをベースにしたノンアルコールカクテル。

山本は塩の「色」が好きだという。

「塩は無色透明の立方体です。それが重なり合って光を乱反射することで、白く見える。自分の気持ちを吸い取ってくれる、受け止めてくれるような奥行きのあるきれいな色だと思います」

塩は高湿度では溶けてしまう物質だ。

「塩ってコントロールしにくい素材なんです。そこに魅力を感じている。あるとき塩の作品を半分まで作って、用事があったので数日そのままにしておいたら池のように溶けてしまったこともありました。私は自らに“一発描き”、描き直さないというルールを課しています。それは思い通りにならないものと向き合っている自分を忘れたくないから。病気や命など、いくら望んでもその通りにならないこともある、そのことを意識していたい」

2006年からは展示終了後、作品を壊して塩を集め、「海に還るプロジェクト」を始めた。山本は海外で現地制作することもあるが、使っている塩は粒の揃った描きやすいタイプなのだという。

「海は世界中でつながっていますから」

海から採れた塩で渦巻きや迷宮を描き、その塩をまた海に還す。山本の作品も私たちもそんなサイクルの中にいるのだ。

永沢碧衣《山景を纏う者》(2021年)。霧か雲の中、クマの体が山並みにとけ込むように見える。作者は出身地である秋田県でマタギとともに狩猟をしたり、釣りをしながら全国各地で制作している。
谷保玲奈《蒐荷》(2020年)。花や虫など江戸絵画にも見られる伝統的なモチーフを岩絵の具で描いているが、表現は谷保独特のものだ。
第2章「日本画の革新」で展示されている岸田劉生《麗子坐像》(1919年)。キャンバスに油彩という西洋絵画の手法で描かれた一枚。

『シン・ジャパニーズ・ペインティング 革新の日本画─横山大観、杉山寧から現代の作家まで』

〈ポーラ美術館〉展示室1-3、 アトリウム ギャラリー。神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285。~2023年12月3日。会期中無休。

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