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【本と名言365】シャルロット・ペリアン|「フォルムは視覚、…」

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September 20, 2023 | Culture

これまでになかった手法で、新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。いまあらためてその仕事が評価されるシャルロット・ペリアン。彼女は幾度も日本を訪れているが、はじめての日本滞在時に柳宗悦との出会いから発せられた言葉とは。

シャルロット・ペリアン/建築家、デザイナー

フォルムは視覚、触覚に訴えかける

フランス・パリの美術館〈フォンダシオン ルイ・ヴィトン〉で開かれた回顧展などを通し、世界的な再評価が進むデザイナーがシャルロット・ペリアンだ。その仕事は家具でよく知られているが、ペリアンは建築と連続するインテリアとして家具や空間造作を考え続けたデザイナーだ。ル・コルビュジエのアトリエに入所した1920年代から最晩年の1990年代にかけ、長期にわたって精力的に活動した彼女の歩みはモダンデザインの歴史そのものといっていい。

ペリアンが自ら記した自伝は、デザイン史に残るさまざまな出来事の裏側まで生々しく伝える一級の資料だ。ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレとの共同名義となっている数々の家具で主導的な役割を果たした彼女はやがてフランスを離れ、ル・コルビュジエの事務所で親しい同僚であった建築家の坂倉準三の誘いで日本の工芸指導を行った。ドイツ軍がフランスへ侵略した1940年、長い船旅で日本へやってきたペリアンは、坂倉準三、前川國男、柳宗理、河井寛次郎らと交流を深め、日本の建築工芸界に大きな足跡を残した。

本書でペリアンは、柳宗悦との出会いからバウハウスの考えをさらに発展させ「フォルムは視覚、触覚に訴えかける」との持論を展開する。バウハウスが提唱する機能から生まれるフォルムに賛同しながら、民藝との出会いを経て、それを超えたところに人とフォルムの関係があると彼女は悟った。盛岡の南部鉄器を例に、小さなイボイボで覆われた姿は無用な装飾でなく、湯を歌わせる機能だと見る。さらに岡倉天心の『茶の本』から「無言のものに耳を傾け、見えないものを凝視する」という一文を引用しつつ、そこにも真のモダニズムを見出したと振り返る。

ペリアンはデザインを、無からの創造ではなく「選択」と「総合」の結果だと考えた。日本に限らず、驚くほどに世界各地を巡って同時代を生きるさまざまな表現者と交流したペリアン。そのデザインは実に多様な文化を下敷きに、彼女独自の表現で昇華された。本書の最後でペリアンは「新しい1日がはじまる」と結ぶ。どこまでも時代を力強く冒険したペリアンの言葉はいずれも示唆に富んでいる。

自身の生い立ちから、モダンデザインを代表するさまざまな人物との交流、晩年の活動に至るまでを語った一冊。『シャルロット・ペリアン自伝』訳:北代美和子 みすず書房 5,940円/2009年初版発行

シャルロット・ペリアン

1903年フランス生まれ。建築家、デザイナー。1927年にサロン・ドートンヌで発表した「屋根裏のバー」で話題を集める。同年、ル・コルビュジエとピエール・ジャンヌレのアトリエに入所し、ラ・ロッシュ邸やチャーチ邸などを担当。1940年に商工省の招聘を受け輸出工芸指導顧問として来日。終戦後はマルセイユのユニテ・ダビタシオンの設計に参加したほか、ジャン・プルーヴェとも共同作業を行うなど多方面に活躍した。1999年没。

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