March 23, 2016 | Design, Architecture | casabrutus.com | photo_Satoshi Nagare
text_Miki Honma
ドイツ・フランクフルトで開催された世界最大級のトレードショー「アンビエンテ」の現地リポート。アイコンデザインが目白押しで華々しかったのは〈イッタラ〉です。
ドイツ・フランクフルトで毎年2月に開催される「アンビエンテ」は、生活雑貨や食器、キッチン用品など世界から4,300社が集まる世界最大級のトレードショー。食器やキッチンツールの世界へのデビューの場として、毎年多くのバイヤーが集まり、世界のショップに発信されている。
その中でも来場者が必ず訪れるのがフィンランドの〈イッタラ〉。毎年、今年はどんな空間?と、展示のデザインウィットが期待される人気ブースだ。アンビエンテに先駆けて発表された、イッセイ・ミヤケとコラボレーションした新作が話題を呼んだが、こちらでは従来の〈イッタラ〉らしさを見つめ直した新作もお披露目された。フィニッシュ・アイコンのオンパレード!
カイ・フランク(1911-1989)は〈イッタラ〉の原点ともいえるガラス器のデザインで、〈イッタラ〉の名前を世界に広めたプロダクトデザイナー。日本でも超定番食器と言える《ティーマ》《カルティオ》など、ミニマルなデザインを見れば思い出す人も多いだろう。
カイ・フランクによる《ティーマ》《カルティオ》などのシリーズ。
カイ・フランクはカトラリーなどのデザインも手がけていて、その中の一つが復刻された。1952年デザインの《スカンディア》。フィンランドの国民的なカトラリーと位置づけられるほどで、フォークの先が豆やライスを救いやすいように平らになっていたり、スプーンはスープが一口でたっぷり食べられるように丸く深めになっていたり、日々の実用性を重視してデザインされた。
フィンランドのハメーンリンナ市、イッタラにある「イッタラ・ガラスミュージアム」に展示されている、オリジナルの《スカンディア》。
《スカンディア》左から/ディナーフォーク2,000円、ディナーナイフ3,000円、ディナースプーン2,000円、コーヒースプーン1,400円。
世界のコレクターが待ち望んだ2016年の《バード》はこちら。今でも伝統的なマウスブロー(口吹き)でつくられている。
《バード バイ トイッカ アニューアルバード2016》(ハーベストパフボール)65,000円
昨年は東京、上海など都市をテーマにした〈Bird and the City〉の企画で再注目され、新しいコレクターも増えたのではないろうか。今年のバードは「ダウン・トゥ・アース・バード」。ヘッドに銀のアクセント。流れるようなオパールホワイトの首、ボディは透明なブラウンのツートーン。実りの秋にキノコを摘みに地上に舞い降りる鳥の姿をイメージさせる。
ブース内では建築家アルヴァ・アアルト(1898-1976)の名作ベース《アルヴァ・アアルトコレクション》の80周年記念モデルの一つ、新色のエメラルドが春を告げる桜の花とともに飾られていた。「北欧は冬が長い。緑への強い憧れがあります。ノスタルジックなエメラルドグリーンはそんな思いがこめられた新色です」(イッタラ広報)。
《アルヴァ・アアルトコレクション》ベース 120mmエメラルド18,000円。
「イッタラ・ガラスミュージアム」に展示されている、アアルトのベース(1936年当時のもの)。パリ万博フィンランド館へ出品するために1936年にデザインされた。
フィンランドの湖の形を高いガラスの技術で花器にした。世界一有名なベースの一つ。〈イッタラ〉の中でも特に技術のある職人が12の工程を経て、1,100度という高音の中、作業する。一つのベースを作るのに10時間かかる。手作りなので、一つ一つのベースは実は微妙に個体差がある。これが「アアルトベース」の魅力でもあるのだ。
《アルヴァ・アアルトコレクション》プライウッドボウル 358mm ナチュラル 12,000円。
同じく80周年記念で登場したのが、プライウッドのトレイ。プライウッドというのも〈アルテック〉などに代表される、とても”フィンランド的”な素材。もちろんフラワーベースのオーガニックな形に敬意を払ってデザインされている。湖を自然の山々が包み込むような、柔らかで立体的なフォルムだ。
工業製品は家具の世界でも80周年や復刻ものがブームだが、食器や生活雑貨も一つの時代を終えて、新しい世代に名作を引き継ぐ復刻ブームの到来の感。アンビエンテ全体を俯瞰すれば、他のブランドでも名匠巨匠の生活用品が目立った。
そして、今年アンビエンテ会場全体を包んでいたのが、プレゼンテーション。すぐれたものをどう伝えていくか。〈イッタラ〉が選んだテーマは「ギフト」。ウッドレッグのインダストリアルなステージに、誕生日や記念日の素敵なギフトパッケージの提案も(日本では未展開)。
今後はよりインテリアアイテムの提案にも力を入れていくという〈イッタラ〉。ライフスタイルブランドとしての成長も期待できそうだ。
よく見ればブースの壁には引き出しがあり、それぞれのシリーズが隠されているというサプライズも。
問合せ/スキャンデックス TEL 03 3543 3453。公式サイト
〈イッタラ・ガラスミュージアム〉
建築家のユハニ・キコスキーが旧牛舎をリノベーションした、1971年開館の博物館。〈イッタラ〉のガラス製品を中心に貴重なアーカイブを一般公開している。開館は冬期(9月~4月):土日の11時~17時、夏期(5月~8月):火曜~日曜の11時~17時。月曜休。入館料4ユーロ。詳しくは公式サイトへ。