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谷口吉郎の名建築〈春日大社宝物殿〉が軽やかに一新しました。

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October 20, 2016 | Architecture | a wall newspaper | photo_Kiyoshi Nishioka text_Yuka Uchida

春日大社宝物殿が式年造替に合わせて増改築。モダニズム建築再生の新たなモデルができました。

今回の増改築で生まれた〈鼉太鼓ホール〉。柱が一切ない、間口17Mのダイナミックな空間だ。
奈良の春日大社の参道に、木々に守られるようにして建っていた〈春日大社宝物殿〉。晩年の谷口吉郎が手がけた1973年竣工のモダニズム建築だが、耐震面や収蔵スペースの不足が問題視されていた。この建物が、春日大社の式年造替に合わせて増改築されることに。「どこか近寄りがたい印象があった宝物殿を、境内に開かれた建築にしたかった」と話すのは総監修を務めた建築家の弥田俊男。隈研吾のもとで〈サントリー美術館〉や〈根津美術館〉のプロジェクトに関わった人物だ。

もともとの宝物殿は、高さの異なる2つの切妻屋根の棟が雁行し、それを同じく切妻屋根の棟でつないだH字形の建物だった。弥田は2棟をつなぐ棟の屋根を延長し、新たな展示空間をつくることに。ここは、春日若宮おん祭で用いる高さ6.5mの鼉太鼓を飾る〈鼉太鼓ホール〉となる。夕暮れ時、格子から漏れる光の奥に鼉太鼓が浮かび上がる様がなんとも幻想的。既存の建物でピロティとなっていた入口部分は、壁で囲いエントランスホールに。もう一方の棟の1階はガラス張りのカフェにして、建物の印象を軽やかにしている。
エントランスホール。春日杉を張ったダイナミックな壁が出迎える。
水盤に落ちる雫と光の反射が織りなすインスタレーション。
また、エントランスから薄暗い廊下を進んだ先には、光と水のインスタレーションを展示する〈神垣〉という部屋が現れる。これは、春日大社の境内に漂う神秘的な空気を表現してほしいという宮司のリクエストから生まれたもの。展示デザイナーの尾崎文雄と照明デザイナーの岡安泉が手がけており、展示室に移る前に心を鎮める、清らかな空間に仕上がっている。

一見して軽やかさが目に留まる今回の増改築だが、「もともとの躯体の力強さ、頼もしさをよりふさわしい姿にして残したかった」と弥田。例えば、笠木を外し、建物の輪郭をはっきりとさせるなど、繊細な改修が行われている。耐震面では内部に13の壁を追加。周辺の木々を整理することで、2つの蔵が雁行する佇まいも際立っている。各地で叫ばれるモダニズム建築の保存だが、その好例がまたひとつ増えたといえるだろう。

ちなみに名前は〈春日大社国宝殿〉に一新! 国宝352点、重要文化財971点など、日本随一の量と質を誇るコレクションが、今後どのように展示・公開されていくのかも楽しみだ。
重ねたワイヤーメッシュに春日大社境内の映像を投影したインスタレーション。
外から見た〈鼉太鼓ホール〉。「近づきたくなる建物にしたかった」という弥田の言葉の通り、格子から漏れる光に吸い寄せられる。

〈春日大社国宝殿〉

開館記念展『春日大社の国宝-千年の秘宝と珠玉の甲冑刀剣を一堂に-』は11月27日まで。
奈良県奈良市春日野町160
TEL 0742 22 7788。10時〜17時(最終入館16時30分)。無休。拝観料500円。

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