February 26, 2016 | Vehicle, Architecture | Driven By Design 最新デザインに乗って建築巡礼。 | text_Hiroki Iijima
photo_Tatsuya Mine
2015年7月に「明治日本の産業革命遺産」のひとつとしてユネスコの世界遺産登録を果たした韮山反射炉。これだけの歴史の重みに張り合えるクルマは世界にただひとつ。
江戸末期、幕府は欧米列強への備えとして海の守りを固めるため大砲の製造に乗り出した。その製砲工場がここ韮山に設けられ、この反射炉は原材料の銑鉄を純度の高い鉄にするための重要な施設であった。反射とは、銑鉄を溶かすために千数百℃の高温が必要で、炉内の熱を効果的に反射させ温度を上げるための工夫のことだ。つまり煙突よりも土台の部分こそが主役ということになる。世界遺産を目の前にひとつ残念だったのは、煙突の特徴的な金属枠がオリジナルではなく補強のために後から付けられたということ。ずっとこういうデザインだと思いこんでいたもので、ちょっと拍子抜けした。
観光バスから見物客が降りてくると地元のガイドがわかりやすく説明してくれる。反射炉や大砲製造の話とともに彼らが特に強調するのがこれをプロデュースした江川英龍という人物についてだった。地元韮山の代官であり、蘭学に精通し、防衛、医療などマルチな分野に長けた逸材であり、同時に実行力にも優れていた。ひょっとすると、いつか小説やドラマでその名がブレイクするかもしれない。
クルマはおなじみメルセデスベンツGクラス、1979年デビューにして今日までの37年間フルモデルチェンジなしという恐るべき記録保持車である。もちろんその間コツコツと各部を改良、最新装備の更新を続けながらパワーアップ、排気量アップもしてきた。その結果、古いのにいちばん高価なSUVがGクラスなのだ。それだけ世界的に人気が高いということである。この取材車も導入されたばかりの最新型だ。
室内は絶対的な——何人たりとも文句のつけようのない高級感と現代的なきらびやかさが、息苦しいほどの密度で張り巡らされ、敷き詰められていた。さらには驚くほどの遮音性。巨大なV8エンジンもどこか遠くで唸っているようにしか聞こえず、見た目のワイルドさは見事に裏切られる。ナビ、オーディオなどの電子機器はもちろん、走行性、安全性に関しても目いっぱい電子制御されている。なのにクルマの成り立ちから来る乗り味はクラシック。現代のクルマの世界など超越した存在なのである。