January 9, 2021 | Travel, Architecture, Art | casabrutus.com
湯けむりの街、別府に新しくアート・ホテルがオープン! ロビーにもレストランにも客室にも、別府の歴史や文化からヒントを得たアートが顔を見せます。ラグジュアリーなホテルでクオリティの高いアートが楽しめます。
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毎分8万リットルの湯量を誇る別府は温泉大国日本の中でも有数の温泉地だ。街のあちこちに湯けむりが上がる。その別府湾を望む高台にオープンした〈ガレリア御堂原〉は最近増えてきたアートホテルの中でもアートと空間のマリアージュが抜群にいいホテル。アートを見るために泊まる価値のある場所だ。別府で1900年に創業した関屋リゾートが手がける宿になる。
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エントランスを入ると大きな窓から別府の街と海が見えるロビーでは、天井に設置された大巻伸嗣の作品が目に飛び込む。透かし彫りで、別府の伝統的なモチーフや建築物などが刻まれている。
「別府の土地を歩いて、湯の精神、エネルギーの塊のようなものを強く感じ、湯玉の形で表現しました。人々の営みを閉じ込めた『記憶の玉』のようなものでもあります」(大巻)
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壁には白い円形の作品が掛けられている。白地に、テクスチャーの違う白で別府に生えている絶滅危惧種、または絶滅してしまった植物を描いたものだ。
「なぜ絶滅してしまったかというと、人類の存在や行動が原因であることが多いんです」と大巻は言う。歴史にはそんな光と影、陰と陽の両方があるものだ。
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膨大な数の写真をコラージュする西野壮平は別府でもおよそ22000枚の写真で彼の視点による”別府の地図”を作った。大画面にはよく見ると別府の街並みや駅、別府タワーなどが写っている。西野のカメラは市内の温泉にも入り込む。彼が巡った温泉は100ヵ所以上にもなった。
「自分が移動するなど身体的な行為を通じて、いろいろなパースペクティブで構築した”地図”を作っています。作品と風景のつながりによって自分の記憶を再構築している感じです」(西野)
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階段の脇には現地で描かれた鈴木ヒラクの壁画がかけられている。《ゆらぎから光へ》というタイトルだ。
「別府は湯けむりのゆらぎ、人間と自然との境界のゆらぎ、人間の内面のゆらぎなど、豊かなゆらぎのある場所だと思う。天体物理学によるとちいさなゆらぎに物質が集まって銀河が生まれたとされています。ゆらぎが宇宙をつくっている、また宇宙全体が一つのゆらぎだと考えることもできる」(鈴木)
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〈ガレリア御堂原〉の建築は内外が融通無碍に連続しているのが特徴だ。大きな窓やテラス、坪庭のような空間を通じて内部と外部がつながりあう。そんなスペースの一つに設置されているのが中山晃子の作品だ。粘度の高い液体のようなものが沸き立ち、波紋が広がる。盛り上がった液体は信じられないような形状を見せる。この映像は沸き立つ別府の湯を1秒間に2500コマ撮影できるハイスピードカメラで撮影したもの。時間を引き延ばしてスローモーションにした以外は大きな操作は加えていない。
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「時間を絵筆で触るように制作しました。 普段は捉えることのできない形をゆっくり味わえる作品となりました。」(中山)
無数のしずくは一つとして同じ形にはなり得ないことも彼女にとって魅力的だったという。
「しずくはまるで人体のようにも感じられて、頬骨や骨盤と同じように、形作られたように見えました」とも中山は言う。
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2階の「Hot Spring Bar」はバーとしての利用はもちろん、昼間にカフェとして使うこともできる。一部の席にはコンセントもあり、海を眺めながら仕事をすることも可能だ。宿泊者だけでなく一般の利用もできる。ここの壁に掛けられているのは草本利枝の写真作品だ。さまざまな色に満ちた「鉄輪・別府地獄めぐり」のお湯の表情をとらえている。
「目の前の風景に見る一種の裂け目のようなものを撮りたい」(草本)
別府出身の彼女は、現在、京都を拠点にしている。
「別府をしばらく離れて帰ってくると、私の記憶や物語を拒絶するように存在する、むき出しの圧倒的な風景として立ち現れてきた」のだと草本は振り返る。
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〈ガレリア御堂原〉は内外の境界があいまいな上に、各部屋をつなぐ半屋外の回廊が複雑に曲がりくねっている。別府の街中に残る、小さくて親密な感じのする路地のようだ。その路地のような回廊のあちこちや客室には小さな人型のオブジェが作り出す風景に遭遇する。これは大分県を拠点にするアートユニット、オレクトロニカの作品だ。
「人型のオブジェは建築や風景や他の作品を見ている」と彼らは言う。
作品が置かれる場所がホテルということで、彼らは「旅」についてもいろいろと考えた。「外を向きながら最終的に自分に向かってくるのが旅だと思う」という彼らの言葉が人型に凝縮されている。
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客室にも作品が置かれてアートとともに眠りにつくことができる。泉イネの絵は〈ガレリア御堂原〉の敷地に生えていた植物と、別府で暮らしていて路地などで見つけたタイルがモチーフだ。植物は工事前に何度か通って撮りためていたのだそう。
「別府に滞在して日々温泉に通っているといろいろな世代の人の声が聞こえてきました。その中には愉快な話ばかりではなく、戦争の記憶もある。そんな話を聞いているときも温泉の湯の音は止まらずにずっと流れている」
タイルは温泉だけでなく旅館や花街の建物にも使われていた。泉は一時置屋として使われていた建物をアトリエとしていたことがあり、そこにいた女性たちにも思いを馳せたという。
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2ベッドルームスイートにはNerhol(ネルホル)の作品が置かれている。2年前に別府で滞在制作したものだ。彼らの作品は同じ場所で撮影した何枚もの写真を重ね合わせ、彫り込みを入れていく半立体のようなもの。分厚く重ねられた印画紙による彫刻ともいえる。「時間を一つにまとめて、ズレやブレといった構造を加えたもの」だと彼らは言う。
「日常で見た何気ないもの、違和感を覚えたものを深く見ていくことが僕たちの制作のスタートです。当たり前のように見えるけれど検証していくと偶然と必然が積み重なっていて、存在していることが奇跡だと思う」(Nerhol)
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隣接するレストラン〈The Peak〉には別府で活動する勝正光のドローイングが飾られている。鉛筆で丁寧に描かれたモチーフは湧水や石、地層、木、葉などすべて別府で彼が見つけたものだ。「今もそこに行けば無数にあるもの」だと彼は言うが、葉脈や年輪に重なった時間の厚みは彼にしか描けない。
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このレストランの2階、一番奥のテーブルには人間ではない客が座っている。島袋道浩の作品である《イワオ》が鎮座しているのだ。この岩はホテルの駐車場を整備しているときに”出土”したものだそう。
「土が1メートル堆積するのに大体1万年かかると聞いたことがあるのですが、 このイワオは、すぐそこの地中5メートルのところから出てきたので5万年、5万歳ぐらい。 このテーブルに座れば、ここの土地そのものだった岩と一緒に食事をしたり、 お茶を飲んだりできます。場所、歴史との新しい関係の結び方。 忘れられない体験になればと思います。」(島袋)
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作家とアートのキュレーションを担当した山出淳也は言う。
「光を受けて輝くエントランスでの青木さんのガラス作品や、 ロビーでの天井照明にもなる大巻さんの作品のように、 1階ではお客様の”心のスイッチを入れる”歓迎のための空間として、 光を感じるように構成しました。 そこから階段を登った先にあるバーは、色を積極的に使った作品によって、お客様の”体温を上げる”ように工夫しました。さらに、館内のあちこちに点在するオレクトロニカによる箱庭的な作品や、 この土地で生まれた石と対峙するレストランでの島袋さんの作品は さまざまな風景を想起させます。 12組の作家の作品でいろいろなことを受信できると思います」
エントランスで光のアートに迎えられ、路地のような回廊を巡り、客室でお湯につかり、レストランで島袋の”岩”と食事をする。アートと過ごす時間がストーリーになるホテルが生まれた。
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