September 18, 2020 | Design, Architecture, Art, Travel | casabrutus.com
インテリアスタイリストが街で見つけた素敵な空間を紹介する連載第11回目は、京都・烏丸御池の〈新風館〉内にオープンした〈エースホテル京都〉。LAのデザインチーム、コミューンデザインが監修した京都のホテル空間は、唯一無二の和洋折衷スタイルが魅力的でした。
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烏丸御池のランドマークだった煉瓦造りの〈新風館〉が隈研吾の監修により大きく生まれ変わったのは今年の6月。その中でも最も注目していたのが、初の海外進出を果たしたアメリカ、シアトル発の〈エースホテル京都〉です。空間のデザイン監修を手がけたのは本国のエースホテル同様、LAを拠点に活動するコミューンデザイン。土地や空間の特性に合わせて自由に発想する彼らのスタイルにかねてから興味を持っていた僕も、早速宿泊してきました。
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〈エースホテル京都〉は吉田鉄郎の設計で1926年に竣工した旧京都中央電話局の建物を生かした保存棟と、新たに増設された新築棟にまたがり全213室の客室が用意されています。
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”East Meets West”をテーマにした館内には、至る所に日本の作家やメーカーが手がけたクラフト作品やアートワークが配置されています。代表的なのは、銅板を叩いて成形した富山〈能作〉のレセプションカウンターや、染色工芸家の柚木沙弥郎の案内表示や全客室の壁面アート、ロビーや階段まわりに点在する浜名一憲の大きな壺などです。
新旧織り交ぜ、コミューンデザインのセンスで選ばれたそれぞれの作品は、時には館内設備と一体になり、あるいは単純な装飾として用いられたりと、実に様々な形で目を楽しませてくれます。プロジェクトのスタートから、作品を含めすべてが完成するまでには、約5年ほどの期間がかかったそうです。
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宿泊したのは、烏丸通りに面した地上3階建ての保存棟にある「ヒストリック・ツイン」の一室。旧京都中央電話局のクラシカルな建物を利用した部屋で、天井高のある寝室部分には大きな窓があり、開放感を味わえる心地よい間取りとなっています。
ラウンジスペースは座布団がシートクッションになったコミューンデザインのソファにイサム・ノグチの和紙のフロアランプを合わせ、壁には柚木沙弥郎の鮮やかなアートがひとつ。カーテンや壁付のランプシェードに使用されているテキスタイルは〈ミナ ペルホネン〉のものでした。まさに新旧の日本の工芸、デザインを折衷しながら”East Meets West”のテーマでスタイリングされた空間ですが、細かな色使いや素材使いにも目を見張るものがありました。
柄物のテキスタイルを随所に使いながらも、室内の印象が煩雑にならず上品にまとまっているのは、効果的な黒の色使い。間仕切りの柱やスクリーン、窓やドアの枠、デスクチェアのフレームやゴミ箱に加え、卓上ランプにオーディオやポットなどなど、建具から細かな小物まで、要所要所に引き締め役となる黒の色を使って空間全体の統制が図られています。ベッドにアレンジされている〈ペンドルトン〉のブランケットと〈ミナ ペルホネン〉のカーテン生地を同系色にまとめて色彩をコントロールしている点も見逃せませんでした。
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そしてなんといっても、最も素材使いの妙を感じられたのが、ワードローブやミニバーの置かれた収納扉の面材として用いられた有孔ボードの存在です。扉全面に使用するわけでなく、一枚だけを有孔ボードにしている部分などは本当に参考になりました。規則正しく空いたドット穴のパターンをスパイス的に配置することで軽快な印象を生み、カジュアルでいて上品という、居心地のいいバランスを生んでいるのです。この有孔ボードの使い方は、家作りの参考としても取り入れやすいアイデアかと思います。ほかの客室にも同様に使用されていますので、ぜひ見ていただきたいポイントですね。
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今回の滞在は2泊。限られた時間でしたが部屋の中に置かれたアナログレコードで気ままに音楽を流しながら身支度をしたり、ソファに座って1日の計画を練ったり。親しい友人の家に遊びに来ているようなくつろいだ気分になれる室内での時間は、大変有意義なものでした。宿泊者でなくても出入りできるロビーに加え、バーやコーヒーショップなど自由に楽しめるスポットが沢山あって、出掛ける時にも帰ってきた時にも館内を移動する度に発見があってワクワクできました。
常に新たな文化発信の拠点となり得るライフスタイルホテルのあり方を提示してきた〈エースホテル〉のアジア進出1号店ということで、期待値も非常に上がった状態でお邪魔したのですが、本当におすすめです。京都の街を散策する拠点として、もっと早くこんな場所が欲しかった! という気持ちにさせてくれる、素敵な内装に仕上がっていました。
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