December 7, 2019 | Architecture, Art | casabrutus.com
日本に現存する最古の公立美術館建築が、青木淳と西澤徹夫によるリノベーションで甦りました。建築家により、そのポテンシャルが再発見され、まちへと大きく開かれた歴史ある美術館の魅力をプレビュー!
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2020年3月21日にリニューアルオープンする〈京都市京セラ美術館〉。3年前、SANAA、隈研吾ら日本を代表する建築家たちが参加した改修プロポーザルで、広場を掘り下げ地下にエントランスを設けることで、歴史的建築の外観を残すという改修設計の革新的なアイデアが話題に。
さらに今年、改修を手がけた建築家のひとり、青木淳が館長に就任するというニュースも飛び込み、美術界のみならず建築ファンからも熱い注目を集めている美術館だ。その改修がついに完了し、11月にお披露目。開館に先駆け、その見どころを紹介しよう。
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この美術館が誕生したのは、1933年のこと。建物が現存する公立美術館としては日本で最も古く、昭和初期に広まった和と洋の意匠が融合する建築様式「帝冠様式」の代表例として知られる歴史的建造物だ。
集客力は京都屈指。京都画壇のコレクションを持つ一方で、公募展や美術系大学の卒業制作展が頻繁に開催され、その傍らで『ルーヴル美術館展』などの新聞社主催の大展覧会が行われてきた。
内容も客層もバラバラな展覧会が同時多発的に行われるヘビーデューティーな美術館。その状況に対して、建物そのものの老朽化や訪れる人々に対応するロビーの手狭さ、展示に必要な設備の手薄さといった課題は明らかで、リニューアルに寄せられる期待は大きかった。
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青木淳と西澤徹夫による今回のリノベーションでは、建物の周辺エリアとの融合がはかられ、鑑賞を目的にしていない人々も自由に通り抜けられる、開かれた美術館へと進化した。
「なかでも大事にしたのは、西側・神宮道側の前広場を広場として残すことと、この建築がもともと持っている西玄関から東玄関を貫く軸線を強めること」と青木淳は述べている(『像を重ねていく美術館』青木淳)。
青木が「大事にした」という広場の存在は、すでに界隈の人の流れを大きく変えつつある。建物正面の広場にはなだらかな傾斜がつけられ、周辺を散策する人々が自然と、新設された「ガラス・リボン」と呼ばれる地下エントランスへと吸い込まれていく。
リニューアルオープンの暁には、「西玄関から東玄関を貫く軸線」を開放。美術館を横断し、建物裏手にある日本庭園を抜けて隣接する動物園へと至る、魅力的なルートが生まれるはずだ。
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建物の内部も動線が整理されたことで、構造や意匠を引き継ぎながらも、印象ががらりと変わった。まず驚かされたのが、「中央ホール」。「ガラス・リボン」から入館し、かつて「下足室」として使用されていた天井の低い空間を抜けると現れる、天井高16mの明るく真っ白な大空間だ。
ここは元々、美術館の主要な展示スペース「旧大陳列室」であったが、あえて展示室ではなく、複数の空間やスペースを結ぶハブとすることで、訪れた人々が広場や庭園、各展示室へと自在にアクセスできるようになった。
各展示室は、創建当初の意匠を残しながらも、設備がアップデートされている。たとえば壁の内部に設備を収める場合、元の意匠を残したまま、上から壁が張られており、剥がせば元通りに戻せる仕様だ。
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そして、建築家による手が加わり、元の施設の潜在的な魅力が見事に引き出されたのが、以下の3つのシーンだ。
1つ目は日本庭園のビュー。本館裏手にありながら、あまり知られていなかった日本庭園。本館と庭の間にガラス張りのスペースを設け、見通せるようになった。
2つ目は、「光の広間」「天の中庭」と呼ばれる本館の2つの中庭。以前は塞がれていたが、上からの自然光が心地よい多機能な空間へと生まれ変わった。
3つ目は新築の現代美術ギャラリー〈東山キューブ〉。こけら落としが『杉本博司 瑠璃の浄土』となる空間は、クラシカルな本館とは対照的に、現代アートに対応する設備を備えたホワイトキューブで、屋上庭園からは東山を望む雄大な見晴らしも楽しめる。
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実はリニューアルをきっかけに、元の美術館の混沌とした魅力が失われてしまうのではないかと、いくばくかの不安を抱いていたのだが、できあがった建築を見て安堵した。
「すでにこれまでに重なってきた像の層を引き継ぎ、そこに新たな一枚の像を加えようとしました」と青木は語る(前出文)。
80年超、多くの市民がそれぞれのスタンスで接点を持ち続けてきた美術館。リノベーションにより元の建物が持つポテンシャルは再発見され、歴史が継承されつつも別の角度にも開かれた。これからもさまざまな営みを交錯させながら、新たな歴史を歩んでいくに違いない。