April 4, 2019 | Architecture | casabrutus.com
パブリックアートプロジェクト「ソウルは美術館」の一環として、緑莎坪(ノクサピョン)駅が刷新。3月14日、新たな姿でお目見えしました。
![](http://casabrutus.com/wp-content/uploads/2019/04/0401danceoflight1_666.jpg)
建築家・猪熊純と成瀬友梨が手がけた初の海外作品「Dance of Light」が完成。3月14日、オープニングセレモニーが開催された。
舞台となったのは、地下鉄6号線緑莎坪駅。経理団通り(キョンニダンキル)や解放村(ヘバンチョン)といった近ごろ人気のエリアの起点として、また米軍基地の移転により整備が予定されている龍山公園の最寄り駅としても注目を集めている。
改修プロジェクトのコンセプトは「地下芸術庭園」。韓国の若手作家6組によるコミッションワーク展示や、600以上の鉢植え植物を使った植物園、ギャラリーやセミナールームといった市民のための施設整備がその内容だが、中心となったのは、地下1階〜4階にわたる4層吹き抜けのメインホール(アトリウム)の改修。2018年夏に実施された国際指名コンペにより、成瀬・猪熊が選ばれた。
![](http://casabrutus.com/wp-content/uploads/2019/04/0401danceoflight2_666.jpg)
実は、この緑莎坪駅は乗降客に対して、規模が大きすぎることでよく知られていた。2000年の開業時、市庁舎の移転や地下鉄11号線の乗り入れ計画を見越し、総面積6,000㎡と大規模に作られたが、それらが頓挫。ドラマや映画のロケ地として使われた時期もあったものの、空間を持て余していたというのが現状だ。しかし、建物自体のポテンシャルは高かったと猪熊は話す。
「初めて見た時は、開業から20年近くが経ち、少し汚れた印象でした。ハイテク風な意匠の上、素材の使い方もメタル系を中心にかなり雑多で、目に飛び込んでくる情報が多すぎて疲れてしまうというのが正直なところ。しかし、直径42m、高さ35mの大きな吹き抜けと、自然光が差し込むトップライトのある特徴的な空間に可能性を感じました」
工期も工費も限られた中、彼らが考え出したのは、白いエキスパンドメタル(金属の板材を編み目状に加工したもの)でできた巨大なドームの設置。既存建物とアトリウムの間に薄く繊細な膜を張ることで、雑然とした周囲の風景を霧の中に閉じ込めるように抽象化し、光の変化を際立たせることにしたという。
![](http://casabrutus.com/wp-content/uploads/2019/04/0401danceoflight4_666.jpg)
「今回の改修で一番大切にしたのは、天井に設けられたガラスのドームから差し込む光をいかに美しく見せるか? トップライトからの光がエキスパンドメタルに反射し、時間や季節、天候に応じて刻々と姿を変える様子を駅の中に表現したかった」(猪熊)
ホームから地上へとただ通り過ぎるだけの場所から、太陽の光とともに自然を感じる空間への更新。
「日中には天窓からの強い光が全体を照らし出し、夜には周囲の人工照明を背景にドームがランタンのように浮かび上がる。これらの変化は、忙しく移動する人々にすぐ気づかれるものではないかもしれません。しかし、ふとした時、日常的な駅の中で、私たちとはまったくスケールの異なる自然のダイナミズムがあることを感じてもらえたらうれしいですね」(成瀬)
よく見ると、エキスパンドメタルには、階段やエレベーター用の出入り口のほか、いくつかランダムに開口が設けられている。周囲を取り囲む回廊から見ると、立ちこめる霧の中に時折、晴れ間がのぞく趣向だ。
「霧がかかっているだけでは閉塞的なので、時々スパッと景色が見えるほうが気持ちいいと思って…。吹き抜けを介して反対側まで見渡すと、奥行きも変化します。開口は動線上にも設けられていて、吹き抜けの中と外を行ったり来たりするのは、空間体験としてもユニークなんです」(成瀬)