September 20, 2017 | Architecture, Art | casabrutus.com | text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano
〈東京ミッドタウン〉の芝生広場に現れた巨大な移動式コンサートホール〈ルツェルン・フェスティバル アーク・ノヴァ〉。建築家の磯崎新とアーティストのアニッシュ・カプーアのデザインです。東日本大震災の復興支援として生まれたホールは10月4日までの期間限定設置。不思議な空間を体験するチャンスです!
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「人の体の中に入ったような、あたたかみのある空間」。9月19日に行われた〈ルツェルン・フェスティバル アーク・ノヴァ〉(以下、アーク・ノヴァ)のオープニング・セレモニーで梶本眞秀はそう語った。〈東京ミッドタウン〉の芝生広場ほぼいっぱいに広がった、巨大な風船のような移動式のコンサートホールだ。磯崎新とアニッシュ・カプーアが共同でデザインしている。
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梶本はクラシック音楽を中心にイベント企画を手がけている。2011年3月12日、東日本大震災の翌日に梶本のもとにかかってきた1本の電話がこの〈アーク・ノヴァ〉の始まりだった。電話をしてきたのは旧知のルツェルン祝祭管弦楽団の創設者、ミヒャエル・ヘフリガー。自分にできることはないだろうかと尋ねてくれたミヒャエルに梶本は「音楽で被災者を励まして欲しい」と答える。
さらに梶本が友人の磯崎新に相談すると、磯崎は「移動式のコンサートホールはどうだろう?」というアイデアを出してくれた。被災地は海岸沿いに200kmにも及ぶ。一つのコンサートホールを建てるよりも、移動式にしていろいろなところを回れるようにしたほうがいい、という考えだった。磯崎は梶本にアニッシュ・カプーアの作品を紹介する。こうして〈アーク・ノヴァ〉が誕生した。
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〈アーク・ノヴァ〉の大きさは、高さ18m、幅30m、奥行36m。塩化ビニールでコーティングされたポリエステル製の膜でできている。送風機で空気を送り込むと膨らみ、また畳んで収納することができる。紫がかった赤はカプーアの《リヴァイアサン》(2011年、グラン・パレ)や《マルシュアス》(2002年、テート・モダン)を思わせる。《マルシュアス》は発表当時、“世界最大級の彫刻”と呼ばれて話題になったが、今度は東京でその中に入ることができるのだ。
中に入ると赤紫の光に満たされた空間が広がる。出入り口などを除くと曲面のみでできているので距離感や方向感覚が惑わされる。どこまでも広がったスペースのその先に膜があるような、奇妙な感覚におそわれる。柔らかい膜の中では、独特の一体感も感じられる。
〈ルツェルン・フェスティバル アーク・ノヴァ〉は2013年から2015年にかけて宮城県松島・仙台市・福島県福島市で公演を行った。ルツェルン祝祭管弦楽団所属の演奏者のほか、和太鼓や雅楽など、国内外の奏者によるコンサートや能の公演が行われている。子供たちを対象にした演奏会やワークショップも行われた。
〈ルツェルン・フェスティバル アーク・ノヴァ2017 in 東京ミッドタウン〉ではコンサートや映画上映、トークなどが行われ、それ以外の時間は、原則、一般公開される。入場料の一部は東日本大震災復興のために寄付される。9月23、24日はミッドタウン・タワー5Fリエゾンセンターから、〈アーク・ノヴァ〉を見下ろすことができるチャンスも。めったに体験できない空間を味わえる貴重な機会だ。