May 8, 2025 | KASHIYUKA’s Shop of Japanese Arts and Crafts | photo_Keisuke Fukamizu logo design_Akihiro Kumagaya hair & make-up_Masako Osuga editor_Masae Wako
日常を少し贅沢にするもの。日本の風土が感じられるもの。そんな手仕事を探して全国を巡り続ける、店主・かしゆか。今回訪ねたのは「ハンコの里」と呼ばれる山梨の旧六郷町。小さな町の小さな伝統工芸、甲州手彫印章に出会いました。

ハンコには想い入れがあるんです。上京した頃 “お仕事で必要ですよ” と言われても、珍しい苗字だと市販されてない。オーダーしてやっと届いた時のうれしさは、今も覚えています。私だけのもの! っていう特別な感じがしたんですね。
「山梨県の御岳山では昔から水晶が採れ、江戸時代には甲府を中心に水晶の加工技術も発達しました。また、文字の知識に長けた篆刻家が多くいたことや、六郷地域が足袋の行商で栄え、販路が整っていたことも特徴。それらの好条件が合わさって、水晶やツゲの木、水牛などの角を使った印章(ハンコ)作りの産地が形成されたんです」

そう話す望月煌雅さんは、家業の印章業を受け継いだ3代目です。
「小学生の頃は同級生の半数ほどがハンコの仕事に携わる家の子ども。卒業文集の “将来なりたい職業” も、ハンコ屋が一番人気でした」


この日拝見したのは、名刺に捺す小さめの「名刺手彫印」作り。文字を組み合わせて印面をデザインする「印稿」に始まり、それを印面に筆で描く「布字」、文字以外を彫って凹凸をつける「荒彫り」、線のエッジを整える「仕上げ」まで、ひとつに1、2か月もの時間をかけて手作りします。傍らのノートには、文字やデザインの修正を繰り返した跡がいっぱい。

「印章の要は文字。基本はオーダーメイドです。印章を作る目的や想い、その方に合う雰囲気の字形や配置を考え、字典や書物をひいて正しい文字や背景を調べます。同じ文字を同じ書体で製作したとしても、字形や配置、線と線の間隔によってまったく変わるので、同じハンコは二つとできません」

まずは7.5mm角の印面に、漢字の練習帳みたいな枡目を引き、その上に反転させた文字を描いていく。次に使うのは起底刀という刃物。針先で描いたように細い文字の線だけを残しながら、周囲の面や、文字の隙間を彫り進めます。まるで小さな小さなジオラマのよう。きれいなカーブもまっすぐな線も全部手で彫っているなんて!


「1mm幅の中に3、4本の線を彫るくらいの感覚ですね。機械彫りのみでは、この切れ味やシャープさは出せないんです」
こうして完成したハンコに印泥(朱肉)を付けて薄紙に捺してみる……きれい! 現れた文字には切れ味があって、でもとてもしなやかです。何より、自分だけのハンコを自分の手で捺せることがうれしい。やっぱり特別な存在です。

名刺手彫印 作/望月煌雅
左/アカネ竹型7.5mm角16,500円。中・右/各地の工芸と協業した「うるしるし」。若狭塗12mm丸49,500円。木曽堆朱12mm丸44,000円(すべて印面を彫って納品/ケース付き)。●もちづきこうが/山梨県西八代郡。公式サイトかしゆか
音楽ユニットPerfumeのメンバー。9月に東京ドーム公演「Perfume ZO/Z5 Anniversary “ネビュラロマンス” Episode TOKYO DOME」開催。かしゆか商店リアルストアは広島、福岡へ。Instagram: @kashiyuka.prfm_p000003