August 29, 2017 | Architecture, Travel | casabrutus.com | photo_Hiroshi Abe text_Mika Yoshida & David G. Imber
建築家フランク・ロイド・ライトの生誕150周年を記念した大規模な展覧会が、ニューヨークのMoMAで開催中です。膨大なアーカイブから絞り込み、独自の切り口で紹介する回顧展。誰もが知っている白亜のうずまきビル、グッゲンハイム美術館の外壁が実はピンク色になるはずだったかも……ってご存じでしたか?
『Frank Lloyd Wright at 150: Unpacking the Archive(フランク・ロイド・ライト150歳:アーカイブを荷ほどく)』は、1890年代から1950年代にかけて建築家ライトが築いた業績を、400点以上もの資料を通じて見せる大・ライト展だ。
MoMAとコロンビア大学エイヴリー・ライブラリーが、FLライト財団から膨大なアーカイブを受け継いだのは2012年のこと。ドローイング55,000点、写真125,000点、書簡30万ページ分、無数の電報に映像に……と、途方もない量の資料を多くのスタッフが分類し、まとめあげたのがこの展覧会である。
ライトの150回目の誕生日(6月8日)にオープンしたこの展覧会は、年代順に紹介しながら全作品を網羅する回顧展ではない。帝国ホテル、メディア、落水荘、装飾、高層ビルなどプロジェクトやキーとなるモノなど、テーマを立ててライトをひもとく、いわば「セレクト集」なのだ。
1939年にエドワード・D・ストーン&フィリップ・L・グッドウィンが設計した棟の3階が会場だ。現在リノベーションが進むこの建物で、一足先に生まれ変わった展示ギャラリーのこけらおとし展でもある。入り口に足を踏み入れると、古いドローイングがすぐ右手に現れた。これが描かれたのは1897年。そう、ライトが最初の建築事務所に就職する際に提出した、ドローイングの現物だ。建築家としてのスタートから、生涯最後のプロジェクトとなったグッゲンハイム美術館(1959年)まで。私たちが知っているライトをより深く知ると同時に、これまで知らなかった側面に出会うこともできる。
メディアを巧みに使い、イメージ戦略に長けていたことでも知られるライト。文字通り「時の人」として表紙を飾った『タイム』誌があるかと思えば、ビデオルームでは1956年、TVのクイズ番組『私の職業は何でしょう?』に出演した時の映像も!
NYのアイコン、グッゲンハイム美術館はその真っ白な姿で知られている。だがライトが当初、ピンクやオレンジ、レッドも検討していたなんて、一体どれくらいの人が知っているだろう?
NYを「金と強欲の都市」と嫌ったライト。だが一方で、1956年にシカゴで発表した〈マイルハイ・タワー〉はその名の通り、1マイルすなわち1.6kmもの高さを誇る超高層ビルである。実に10万人が居住する住宅として夢見た、幻のタワー。2017年の今でさえ、世界最長のビルはいまだこの約半分の高さにしか至っていない。
今も昔も、多くのアメリカ人にとってライトは建築家の代名詞。この展覧会でも建築・デザイン好きの大人や学生はもちろん、アートのパトロンとおぼしきリッチ層のシニア夫婦や、ブルックリン風の若いカップル、子連れファミリーとさまざまなタイプの人々が熱心に図面や模型を眺めている。ライトが「現役の」アメリカの偉人であるのを、直に感じられる展覧会だ。10月1日まで。