August 25, 2017 | Art, Architecture | casabrutus.com | text_Keiko Kusano
都市におけるアートプロジェクトの先駆けとして、その土地、地域に密接に結びついた作品をつくってきた川俣正。今回は〈代官山ヒルサイドテラス〉のルーフトップに作品を設置し、道行く人の注目を集めている。
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「製作プロセスそのもの」を丸ごと作品にするアーティストとして知られる川俣正は、世界中のさまざまな場でインスタレーションを展開してきた。この夏、代官山に突如出現した《工事中》は、建築家、槇文彦の代表作として知られる〈代官山ヒルサイドテラス〉のルーフトップをジャックするインスタレーションだ。
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実は、この《工事中》は、33年前、同名のプロジェクトを同じ場所で行ったことに由来する。1984年、川俣は〈代官山ヒルサイドテラス〉の側面に、木材を利用したインスタレーション《工事中》を公開した。当時は街なかにアートが展開することは、ほとんどなかったこともあり、テナントの理解も得られず、1週間ほどで撤去することとなった。川俣は当時を振り返って「33年前は商業空間でやるということが全く初めてのことで、よくわかっていなかった。けれど、それから先、いろんなことをやっていく中で、《工事中》は僕の中である種のメルクマールになったと思います」と語る。
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川俣は、ルーフトップに作品を設置するアイデアを80年代から温めてはいたが、本作にいたるまで実現したことはなかった。今回、なぜルーフトップを選んだのかというと、ヒルサイドテラス並びの代官山交番前の交差点にかかる歩道橋が今年いっぱいで撤去されることを知ったから。低層のヒルサイドテラスは歩道橋から眺めると、ちょうど見下ろせる良い位置にあるのだ。
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「あの歩道橋を見て初めて代官山に来たという感じがするし、あそこから見た風景というのは特にイメージが強いですよね。(歩道橋が撤去されるということで)代官山という街自体が変わっていくんだなと思いました。ですから、最後に歩道橋から見た記憶を残しておきたいなと思ったんです」(川俣正)
製作途中では、歩道橋から全体像を見ながら現場に指示が飛ぶこともあったという。ちなみに《工事中》に使用した木材の大半は、2011年に荒川区に設置された川俣の作品《汐入タワー》の廃材を利用している。
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今回の作品を経て、川俣は都市空間でのアートの役割にあらためて思いを馳せている。
「最近はアーティストが地方の風光明媚な山や川などに出かけていって作品をつくり、それをたくさんの人が見に行っていますが、これはつまり都会がつまらないということの捌け口ではないかと思う。東京はエキサイティングな都市ですが、画一化された企画でしかなく、閉塞感がどこかにある。アーティストとしては、東京でやるのは難しいですよ。でも、もっと街の中でどんどんやった方が面白いし、その中でやることが良いんじゃないかと久しぶりに感じました」(川俣正)