April 18, 2025 | casabrutus.com | photo_Kimiko Kaburaki text_Kana Umehara ©Shinsuke Yoshitake
全国を巡回していた絵本作家ヨシタケシンスケの展覧会が東京に帰ってきた。今回は、絵本の世界をより身近に感じる大型展示が新しく登場するなどさまざまな角度から展示がスケールアップ。“たっぷり増量”を体感しに出かけてみては?

2022年、東京・世田谷文学館にてはじまった絵本作家ヨシタケシンスケの展覧会『ヨシタケシンスケ展かもしれない』。全国14か所を巡回し、70万人以上を動員した本展が、会場を新たに再び東京へと戻ってきた。
タイトルは『ヨシタケシンスケ展かもしれない たっぷり増量タイプ』。その名の通り、絵本原画やスケッチの追加のみならず、新規の大型体験展示も登場し、さらには新規のオリジナルグッズやテーマカフェ「ヨシタケ飲食店かもしれない」も登場するというかなりのたっぷり増量ぶり。
『りんごかもしれない』にはじまり、最新作の時間をテーマにした『まてないの』に至るまで、独特の視点とユーモアあふれる作風で子どもたちのみならず大人にとってもハッとなるものの考え方やいい感じの力の抜き方を教えてくれるヨシタケシンスケの絵本。デビュー作『りんごかもしれない』の大ヒット以降、30作品を超える絵本を手がけてきた。本展ではそれらがどんな道のりを辿って、完成まで辿り着けたのかを丁寧に紐解く。


前回の展示でも「僕の絵は小さくて、原画は色もついていない。ひとつふたつみればこんなものかと納得できてしまうし、広い会場を絵だけで埋めることも難しい」と語っていたヨシタケシンスケ。本展では「僕の頭の中で何が起きて、どういう試行錯誤を繰り返しながら絵本という形に仕上げていったか」を実際の資料やアイデアスケッチ、ときには編集者からの企画書も並べて紹介していく。


ヨシタケシンスケの「頭の中」へのダイブをまず体感できるのが絵本作家デビュー以前から描き続けているというスケッチの展示コーナーだ。
「常日頃、気を紛らわせるために描いているもの。巡回展では約2500枚を並べているが、今回は7500枚以上が弓なりの壁一面埋めていて、かなり圧巻。ちょっとこの物量にぞっとしてほしい」。
絵本の原画展示も増量し、総枚数は170枚ほど。近著である『メメンとモリ』(KADOKAWA)や『ぼくはいったい どこにいるんだ』(ブロンズ新社)などのアイデアスケッチや原画も追加している。もとはA4サイズの紙にびっしり描かれたアイデアの種はA全サイズのポスターに拡大し、壁に貼られていてとても見やすい。言葉ひとつひとつを追いながら、アイデアがどのように変遷され、まとめられていったか辿るのも楽しい。
細かい字を追うばかりではない。次の展示室にあるのは「つり輪の森」。本展で初登場するものだ。森の中にはつり輪がいくつもぶら下がっている。『あつかったら ぬげばいい』(白泉社)の「おとなでいるのにつかれたら あしのうらをじめんからはなせばいい」という一節を実際にやってみることができる。
「2年前の世田谷美術館の展示はちょうどコロナ禍の真っ只中だった。何かに手で触れて体感するタイプの展示が思うようにできなかったんです。今回の展示では、前回ではボツにしたものも見直しながら、絵本の中に描いたことを実際に体験してどんな気持ちになれるかを体感できる展示を増やしたいと思いました」



「つり輪の森」のほかにも『ちょっぴりながもち するそうです』(白泉社)をイメージした自分だけのおまじないを作るマシーンや『おしごとそうだんセンター』(集英社)に登場する「長い棚書店」のようなベンチなど、子どもたちが触れて楽しめるものも多数ある。自由に絵を描き、それを誰にも見せぬままシュレッダーにかけてしまう「あなただけのヒミツをつくろう!」というコーナーも。頭の中の仕組みを丁寧に披露して、絵本の世界を体感し、楽しませてくれる一方、心の中の自分だけの居場所のみつけ方まで教えてくれる。ヨシタケシンスケの絵本がなぜ人の心をここまで掴むのか、それがよくわかる隅々まで心を満たす展示になっている。
歩き疲れたら、こちらもヨシタケ自身がメニューを考案した特製フードやスイーツが並ぶ「ヨシタケ飲食店かもしれない」にも立ち寄りたい。今回のために用意された蛇口ドリンクバーは蛇口をひねると、りんごドリンク、オレンジドリンク、紅茶がそれぞれ出てくる。「子どもたちだけでなく、大人だってドリンクを混ぜること推奨です」(ヨシタケシンスケ)。いろんな味のドリンクを、いい感じに混ぜたら子どもに戻れる味がする、かもしれない。
『ヨシタケシンスケ展かもしれない たっぷり増量タイプ』
〈CREATIVE MUSEUM TOKYO〉東京都中央区京橋1-7-1 TODA BUILDING 6階。TEL050 5541 8600(ハローダイヤル)。〜2025年6月3日。10時〜18時(土日祝は9時〜、金土および5月4日・5日は〜20時)。会期中無休。一般2,000円。
