February 14, 2025 | Design, Architecture, Travel | a wall newspaper
火災から5年、復活を遂げたノートルダム大聖堂。空間に新たな息吹を吹き込んだデザイナーとは?

2019年4月。黒煙と炎に包まれたパリ・ノートルダム大聖堂に世界が息を呑んだ。火災から5年経った24年末、修復を終えた大聖堂で初のミサが執り行われた。生まれ変わった大聖堂で人々の目を奪ったのは、黄金色を取り戻した石柱やヴォールト天井に反射し、内部に満ちる光。とりわけ、空間に溶け込む現代的で荘厳な新しい典礼祭具が、再建された21世紀の大聖堂にふさわしいデザインとして注目を浴びている。

作者は、デザインと彫刻の両領域で活躍するギヨーム・バルデ。パリの国立高等装飾美術学校(ENSAD)で学び、文化庁所有のローマのヴィラ・メディチに滞在した活動初期から「石」に着目。移動が可能な家具(モビリエ)と移動不可(イモビル)な建造物との不可思議に連続する関係を「動かない家具(モビリエ・イモビル)」として発表した。その後も素材による独自のデザインプロセスで、建築、彫刻、デザインが共鳴する作品を手がけて評価が高い。


大聖堂入口の洗礼盤、その奥の十字空間の中心に設えた祭壇、右手には開いた本の形の説教壇、左に司教らの椅子となる司教座など、ブロンズ製の典礼祭具はどれも素材の力強さを引き出すシンプルで重厚なフォルムが美しい。
製作に入る前、修復に携わるフランス各地の職人たちを訪ねたバルデは、特に「石が持つ清らかな力」に注目したと言う。「私がブロンズを選んだのは、私たちが大きな声を出さず、過剰に見せることなくここに存在するため」
ブロンズは石とステンドグラスで構成される空間に調和し、「高貴なシンプルさ」と評される彼のデザインは、謙虚にして堂々とした存在感を放つ。時代を超越し、大聖堂の過去と未来をつなぐ祭具を、という求めに見事に応えた。


〈パリ・ノートルダム大聖堂〉
6 Parvis Notre-Dame Place Jean-Paul II 75004 Paris。7時45分~19時(木~22時、土・日8時15分~19時30分)。
