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ポーラ美術館の新コレクションで「色」の多彩な顔を見る|青野尚子の今週末見るべきアート

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February 11, 2025 | Art, Travel | casabrutus.com

いつも私たちが何気なく接している「色」。でもアーティストにとっては制作の根本に関わる要素です。ポーラ美術館で開かれている『カラーズ ― 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ』展で色とアーティストとの深くて濃い関係をみてみましょう。

草間彌生《無限の鏡の間-求道の輝く宇宙の永遠の無限の光》2020年。床や天井、壁に鏡が貼られて、鑑賞者の姿も無限に増殖する。作家蔵。 ©YAYOI KUSAMA Courtesy of Ota Fine Arts
ドナルド・ジャッドや桑山忠明ら1960年代のミニマリズムの作家たち。左のドナルド・ジャッド《無題》(1987年)は初公開だ。

モネ、ルノワールなどの印象派を始めとした近代美術のコレクションで知られる〈ポーラ美術館〉。同館では近年、積極的に現代美術の収集も行っている。『カラーズ ― 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ』展は近年同館の収蔵となった10点の作品が初公開されるのを含め、近代から現代へとつながる美術史を「色」という観点から見るものだ。

杉本博司「Opticks」シリーズ。全10点を前期(〜2月26日)・後期(2月27日〜5月18日)5点ずつ展示する。© Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi

展示は杉本博司の「Opticks」シリーズから始まる。微細なグラデーションが見るものの目を惑わせる色面は、プリズムで分光した光のスペクトルをインスタントカメラで撮影し、そのプリントをスキャンしたものを拡大して印画紙に焼き付けるというプロセスを通じてできたもの。アイザック・ニュートンの『光学』(1704年)を参照したこの作品を杉本は「光を絵の具として使った新しい絵(ペインティング)」だという。

クロード・モネ、ピエール・オーギュスト・ルノワール、ベルト・モリゾら印象派の作品が並ぶエリア。影の部分に黒ではなく紫や青を使うなど、光と色の実験が見られる。
ワシリー・カンディンスキー、ロベール・ドローネー、モーリス・ド・ヴラマンク、アンリ・マティス作品。マティスらは激しい色使いで「フォーヴ」(野獣)と呼ばれた。

この杉本作品をプロローグとして、展示は2部構成となっている。第1部「光 と色の実験」で最初に登場するのは印象派の画家たちだ。クロード・モネたちは絵の具を混色せず、明るい色を小さな筆致でキャンバスに置く「筆触分割」という手法を使った。もちろん実際は描かれる対象となるものにそんな点は存在しないのだが、彼らの絵にはものの表面で戯れ、移り変わる光が捉えられている。

レオナール・フジタ(藤田嗣治)、パブロ・ピカソ。左から2番目のレオナール・フジタ(藤田嗣治)《キュビスムの女》(1914年)は初公開。
ジャン・フォートリエ、ルーチョ・フォンタナ、ジャン=ポール・リオペ ル、ヘレン・フランケンサーラー。右から2番目のジャン=ポール・リオペル 《果肉》(1950年)は初公開。下塗りをしないキャンバスに絵の具を染み込ませるフランケンサーラーや、キャンバスをナイフで切り裂くフォンタナなど、色を物質的に扱う作家たちの作品が並ぶ。

色の下に隠された画家の創作の秘密が明らかになることもある。ピカソ「青の時代」の絵画《海辺の母子像》を最新の分析技術で解析したところ、下層に鮮やかな色が塗られていることがわかった。レオナール・フジタ(藤田嗣治)のアイコンともいえる乳白色の肌は、紫外線のもとで青、緑、赤に蛍光発光する顔料を使いわけることによって作り出されていた。モデルをより魅力的に見せる、内側から発光するような肌の質感はさまざまな色のテクニックによって生み出されているのだ。

ケネス・ノーランド、ジョアン・ミッチェル、ゲルハルト・リヒター、アド・ラインハートら戦後の抽象画が並ぶ。奥がジョアン・ミッチェル。リヒターは2011年から自身の絵画をデジタルでスキャンし、再構成することで無数の色の重なりを表現する「ストリップ・シリーズ」を制作している。
前田信明による作品。キャンバスに浮かび上がる十字形は重力の垂直性、横へと広がる地平線・水平線を暗示する。

戦後アメリカ抽象表現主義の画家、ジョアン・ミッチェルはモネを敬愛していた。彼女はモネが滞在していたパリ郊外のヴェトゥイユにアトリエを構え、印象派の絵画を独自に解釈した作品を生み出す。コバルトブルー、山吹色、薄紫色などの色彩が踊る画面はモネとはまた違う心地よいリズムを響かせる。

山本太郎《羽衣バルーン》2014年。空気の色を表現したかのようなインスタレーション。作家蔵。

第2部「色彩の現在」では日本や海外で活躍するアーティストたちが「色」のさまざまな様相を見せる。屏風の前にカラフルな風船が敷き詰められているのは山本太郎の《羽衣バルーン》だ。これは羽衣を見つけた漁師に天女が舞を見せ、天に帰っていくという能の演目『羽衣』をもとにしたもの。屏風にもたくさんの風船が描き込まれている。

「天に帰っていく、その浮遊感を風船で表現しました。もう一つの作品はアンディ・ウォーホルの4枚一組の版画の形式で尾形光琳の《燕子花図屏風》 や葛飾北斎《神奈川沖浪裏》を描いたもの。北斎の浮世絵は版画ですし、《燕子花図屏風》は一部に型紙が使われていて、ウォーホルのコンセプトとも通じるものがあると思います」(山本太郎)

門田光雅による作品。平面作品のほか、ソファ《マレンコ》を立体キャンバスとして描いた作品も。

門田光雅の絵画はキャンバスの上をさまざまな色彩が流れていくように見え る。その絵は20〜30もの絵の具の層でできている。石竹(せきちく)色、浅葱(あさぎ)色などの日本の伝統色だけでなく、パール系など新しい技術に よる色も使われて、歴史と現代とが交錯する。

「風の強い海のそばで育ったので常に流動的な、波の揺らぎのようなものを感じていました。それが絵に現れているのかもしれません」(門田光雅)

小泉智貴(Tomo Koizumi)による作品。「言葉で説明しなくても作品のインパクトで見る人、着る人の心を掴みたい」という。

花のようなラッフルのドレスで知られるファッションデザイナーの小泉智貴はさまざまな色がぶつかり合うように並ぶドレスと、そのためのドローイングを出品した。

「40色以上を使って、新しい色の組み合わせを試しました。期待を裏切る、 心がざわつくような色合いの方が魅力的だと思います」(小泉智貴)

この作品はこれまで彼があまり使ってこなかったパッチワークの技法で作られている。パッチワークは初心者にも比較的トライしやすい技法だ。しかしリサーチの過程で小泉は、日本のパッチワークのレベルの高さに驚かされたという。

伊藤秀人《CELADON:FLAT》2024年。微細なひびが静かなリズムを刻む。 Produced by RYUSENDO GALLERY 個人蔵

この展覧会には工芸のジャンルで活躍する作家も参加している。その一人、伊藤秀人は、中国南宋時代の青磁の色を思わせる、青い釉薬をかけた平面の作品を出品した。表面には一面に「貫入」と呼ばれるひびが入っている。ひびの粗密は土の収縮や釉薬の厚みなどによって変わってくる。

「鑑賞に特化した現代のやきものを作ろうと思ったんです。アートとして成立させるために立体から平面へというように要素を絞って、削ぎ落としていきました」(伊藤秀人)

ヴォルフガング・ティルマンス《フライシュヴィマー 74》2004年、《フライシュヴィマー 112》2007年、《フライシュヴィマー 205》2012年 (左より)。初公開作品。カメラを使わず、暗室の中で印画紙を露光させた ドローイング。© Wolfgang Tillmans, Courtesy Wako Works of Art
丸山直文《morphogen (Brown) 》1994年。キャンバスの上に水をはり、アクリル絵の具を滴らせることで作家の意図しない画面が浮かび上がる。初公開作品。
中田真裕による作品。赤や青の色漆を使い、具象的・抽象的な作品を作り出す。漆を何層も重ねて削り出す「蒟醤(きんま)」という技法を採用している。
アトリウム ギャラリーに展示されている山口歴の作品。アクリル絵の具のほか墨汁も使って、ブラシストロークが特徴的な作品を制作している。© MEGURU YAMAGUCHI

このほかにもアンリ・マティスやゲルハルト・リヒター、ヴォルフガング・ティルマンス、草間彌生らの作品が並ぶ。人間は物質が持つ固有の色を感知するだけでなく、光や自らの目の錯覚によって異なる色を認識することがある。色によってさまざまな感情を喚起させられる場合もあるだろう。色を通じて私たちと世界との関係性を考えるといった楽しみ方もできる展覧会だ。

『カラーズ ― 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ』

〈ポーラ美術館〉展示室1、2、3、アトリウム ギャラリー。神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285。~2025年5月18日。会期中無休。一般 2,200円ほか。


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