July 1, 2017 | Art, Architecture | casabrutus.com | photo_Takuya Neda text_Keiko Kamijo editor_Keiko Kusano
東京・六本木の〈21_21 DESIGN SIGHT〉で開催中の『「そこまでやるか」壮大なプロジェクト展』。昨年イタリアのイセオ湖で10万平方メートルの布に包まれた橋《フローティング・ピアーズ》で風景を一変させたクリストとジャンヌ=クロードを始め、その名に相応しい、スケールの壮大さ、膨大な手間暇、実現の困難なビッグプロジェクトが紹介されています。
本展は、展覧会ディレクターにアートライターの青野尚子を迎え、タイトル通り壮大なスケールの作品や膨大な労力を要す作品、そして実現不可能なことに挑む作家たちのプロジェクトを世界中から集めている。その中でも、展示室に入る前から行き交う人びとの注目を集めている作品がある。西野達の《カプセルホテル21》だ。
シャープな斜めの屋根の下に並ぶ窓には、枕と白いベッドマットがずらり。人が寝ていたら、散歩中の人たちに丸見えである。西野はシンガポールで、実際にあるマーライオンの周囲を囲みホテルの部屋として利用できるようにした《ザ・マーライオン・ホテル》や、銀座のエルメスビルの屋上にある彫刻の周囲を建築物で囲んでまるでリビングの調度品のように見せた《天上のシェリー》等、公共物などを使ってあり得ない状況を作り出してきた。今回は、いわゆるギャラリー空間での展示だったが、どのように取り組んだのだろう。
「お話をいただいた時に、最初に魅力を感じたのは安藤忠雄建築。今回はいわゆる公共物を取り囲む作品ではありませんが、安藤建築と関連付けてアイデアを考えていました。下見に行った時に、建物を外から見ていて、ふと窓の仕切りが1m幅くらいの等間隔になっていることに気づいて。『窓で仕切ってベッドを置いてカプセルホテルにするのはどう?』と展覧会ディレクターに振ったら、意外にも面白がってくれて。でもその時点では、絶対に実現しないと思っていました」
世界中で公共物を使った作品を作り続けてきた西野は、日本は世界のどの国と比べてもプロジェクトを実現するのが困難だという。保健所や消防署等への許可申請が必要なのはもちろんだが、ひとつひとつ進める度に問題も起き、それをクリアしながら進める。今回、最後まで苦戦したのはシャワー室の排水の問題。ギリギリ前日に解決し、無事に内覧会の日を迎えた。会期直前まで実現できるかわからず、何度も諦めかけたという。それでも実現に漕ぎ着けられたのは、西野の熱い思いにほかならない。
「“あり得ない状況”を自分で見てみたい。これが作品を作る一番の理由ですね。六本木の一等地で、安藤忠雄の建築の研ぎ澄まされたシャープで美しいフォルムの中に、単管と発砲スチロールを使った、いかにもチープなカプセルホテルがあったら面白いじゃないですか」
実際にベッドに寝てみると、もちろん狭いが意外に心地よく、窓からはミッドタウンの木々が見える。いい景色だ。もちろん電気もつきコンセントもあり、テレビが見られるiPadまでついている。
会期中は、7月14日(金)、28日(金)の2回にわけて、夜21時半〜翌8時半に、このカプセルホテルでの体験イベントを開催する。当日は作家によるトーク等も予定されている。予約などの詳細は公式サイトにて。
本展に参加している作家は、現代美術家はもちろんだが、建築家もおり、肩書きはどちらにせよジャンルを横断して活躍している作家が目立つ。石上純也はその代表格と言えよう。建築の考え方をベースにしながらも、常に建築としてあり得ないような形、構造に挑戦しており、現代美術界からも注目されている。
これは、現在、中国・山東省の渓谷にて進行中のプロジェクト《Church of the Valley》だ。幅1.35m×高さ45mの教会を渓谷に建てるという。会場には10分の1の模型を展示。それでもデカい。
コンクリートを少しずつ積層して作っていくのだという。天井が空いており、光が漏れてきたり、雨が滝のように壁を伝ってくる。まったく新しい建築体験ができそうだ。
高さ18m、幅30m、長さ36m、巨大な風船の可動式建築〈ルツェルン・フェスティバル アーク・ノヴァ〉を生んだのは、建築家の磯崎新、彫刻家のアニッシュ・カプーアだ。東日本大震災後に、スイスの音楽祭「ルツェルン・フェスティバル」による復興支援策として建築されたもの。被災地に音楽を届ける施設として作られた。制作はKAJIMOTOの梶本眞秀が担当している。素材は、厚さ1mm未満のPVCコーティングポリエステル繊維で、空気を送り込むと2時間ほどで巨大なホールが立ち上がる。会場では模型とドキュメント映像を見ることができる。
ジョルジュ・ルースの《トウキョウ 2017》も、ある意味で建築的と言えるかも知れない。ある1点のみから見ると、空間の中に幾何学模様が浮かび上がる、錯視を利用した「アナモルフォーズ(歪像)」という手法を用いているが、建築の読み解きがかなり重要で、綿密な計算により“ここしかない”1点が導き出される。ルースは、自身の作品は写真に撮影することで完結するという。本人が撮影した美しい幾何学の写真も会場には展示されているので、ぜひご覧いただきたい。
他にも、クリストとジャンヌ=クロード、淺井裕介、ヌーメン/フォー・ユース、ダニ・カラヴァンと方向性はさまざまなだが、それぞれの作品からスケールの大きなプロジェクトを成し遂げる作家の底力みたいなものが見えてくるだろう。