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元「ジャパン」のドラマー、スティーヴ・ジャンセンがコロナ禍の渋谷で撮った都市の「たくらみ」とは?

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January 20, 2025 | Art, Culture | casabrutus.com

70年代から80年代にかけて一世を風靡したバンド、ジャパンでの活動を皮切りに、ジャンセン=バルビエリ、ナイン・ホーセス、近年ではEXIT NORTHなどの音楽活動で知られるドラマー、スティーヴ・ジャンセン。実は写真家としても活躍する彼が、東京・表参道で個展を開いています。パンデミック下の東京を独自の視点で捉えた写真が並ぶ会場で、話を聞きました。

会場風景。左はキービジュアルとして使われている作品。

スティーヴ・ジャンセンは1980年代初頭に活動していたバンド・ジャパンのドラマーとしても知られる。ジャパン解散後は高橋幸宏、坂本龍一らともコラボレーション、作品を発表してきた。2014年にバンドEXIT NORTHを結成、ソロでも活躍している。

写真家としても活動しており、1981年には渋谷PARCOで日本初の写真展を開催。2018年には「KYOTOGRAPHIE」の参加プログラムとして〈美術館「えき」KYOTO〉でも展示を行った。現在、東京・神宮前の〈NEW〉で開かれている個展『The Space Between』は日本では3回目の個展になる。

「写真を撮り始めたのは16、7歳のころ。ジャパンのアルバム・ジャケットなどを撮ってくれていたフィン・コステロにいろんなテクニックを教わったんだ。そのころ使っていたキヤノンの《A-1》は今も持っている。最近ではシグマのボディにキヤノンのレンズをはめて撮っている。アナログ感が出るんだ」

空、鳥、壁。見慣れているはずの景色だけれど、何かが違って見える。

今回の個展に出品されているのは2022年に、高橋幸宏とコラボレーションするために来日したときに撮影したもの。残念ながら高橋幸宏はそのころ体調を崩し、一緒に演奏することはかなわなかったが、比較的時間に余裕があったため、東京の街を撮影していたという。

「渋谷の、たぶん中心だと思うんだけど駅に近いairbnbに泊まっていたんだ。ラブホテルとかいっぱいあるエリアで(笑)、バルコニーからはラーメン屋や小さくて居心地のよさそうなバーが見えた。その宿は畳もあればベッドもあるといったように東西が一緒になった部屋だった。〈キャピトル東急ホテル〉でよく見かけた、日本とアメリカが混ざり合っているデザインが好きなんだ。今回の写真はそんなところからインスピレーションを得ている」

会場は、東京・原宿を拠点にアートオークションを手がける「New Auction」が運営するギャラリー〈NEW〉。ケース・リアルの二俣公一がデザインした。

展覧会のタイトル「The Space Between」はものとものの間にある空間という意味だ。スティーブは東京のビルとビルの間にある「隙間」が気になったという。

「新しい建物と古い建物がまざりあっていて、まったく違うデザインの建物が隣り合っていたりする。その隙間が気になったんだ。ロンドンでは建物どうしが接していることもよくあって、こんな変な隙間があることは少ない」

建物の隙間に息づくパイプや電線。

展覧会のテーマは「レジステンシャリズム」。小説家ポール・ジェニングスの造語で、ものや建物が人間に対して陰謀を企んでいる、というアイデアだ。

「僕の場合、小説ではなくミュージック・ビデオがきっかけだった。ガラスでできた、ケーブルなどが見えるエレベーターがゆっくりと上下するシーンがあって、僕は閉所恐怖症ぎみなのでそのエレベーターが嫌だったんだ。東京の街並みにも似たようなものを感じた。ビルの隙間に誰かがゴミを投げ入れていたり、ステッカーが貼られていたり、パイプや電線が敷設されていたりするのを見るとそいつらが何か企んでいるんじゃないか、わざとイライラさせようとしてるんじゃないかって気がしてくるんだ。でも、そうはいってもダークな側面ばかり強調しているわけではない。モチーフは人、風景、空とさまざまだけれど、それらがバランスよく並ぶようにしている」

サウンド・インスタレーションは会場で販売しているポストカードを購入するとダウンロードして聴くことができる。

会場には彼が作ったサウンド・インスタレーションが流れている。35分のサウンドがループしているというものだ。

「僕が見たオブジェや場所からインスピレーションを得た。僕のドラムや街で拾ったノイズなどをミックスしている。音は静かなものから活気のあるものまでいろいろだけれど、都市の生活ってそういうものだと思うんだ。街にはふだん僕たちが意識しないけれどバックグラウンドにたくさんの音があふれている」

サウンド・インスタレーションには都市や建物から聞こえてくる音も混ざっている。

サウンド・インスタレーションの中には日本語で数をカウントしているものもある。

「東京でもロンドンでも街のノイズって割と似たようなものだけれど、 日本の方がアナウンスやそれに付随する音楽が多いような気がする。数をカウントしているものはAIの声を使っているんだけど、日本の駅のアナウンスに似てると思う。僕はドラマーだからビートをカウントするのが好きなんだ」

撮影した2022年はパンデミックで街が今より少し静かなころだった。

影響を受けた写真家は? と問うと少し考えてブラッサイとセルヒオ・ラライン(注1)の名を挙げてくれた。

「彼らの、暗い通りで撮った写真に惹かれるんだ。セットアップや演出したものではなくて自然なシーンを撮ってるのもいい。僕もスタジオで作り込んだ写真は撮らないしね」

注1:1931年チリ出身。アンリ・カルティエ=ブレッソンに見出されて写真家集団マグナム・フォトに参加。ストリート・フォトを得意とした。2012年没

日本滞在中にはちょうど東京都現代美術館で開かれている坂本龍一の個展にも足を運んだ。

「規模も大きくて、印象に残る展示だった。何年にもわたる彼の仕事が一度に見られてよかった」

断片化された都市の風景がサウンド・インスタレーションと溶けあう。

坂本と並んで長年の盟友だった高橋幸宏とはいい思い出が残っているという。

「彼とは何十年もコラボレートしてきた。僕のことを信頼してくれて、互いにリスペクトする関係だった。彼と一緒に演奏するのはほんとうに楽しかったよ」

春にはイギリスでEXIT NORTHのツアーを控えているというスティーブ。彼の、都市への目線が東京を再発見させてくれる。

Steve Jansen「The Space Between」

〈NEW〉東京都渋谷区神宮前5-9-15 B1F。〜2025年1月23日。12時〜19時。

スティーヴ・ジャンセン

1959年イギリス出身。ミュージシャン、作曲家、レコード・プロデューサー。1976年、兄のデヴィッド・シルヴィアンらとジャパンを結成。1982年の解散後はジャンセン/バルビエリやナイン・ホーセズなどのユニットで活動、2007年には自身にとって初のソロアルバム『スロープ』を発表した。2014年からEXIT NORTHとしての活動を開始。ジャパンでの活動と並行して写真を始め、これまでに『Through a Quiet Window』などの写真集がある。

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