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京都の禅寺〈両足院〉で見る。日本の伝統建築と融合する、ポール・ケアホルムの世界。

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December 31, 2024 | Design, Architecture, Travel | casabrutus.com

デンマークを代表する家具デザイナー、ポール・ケアホルム。そのミニマルなデザインと洗練された構造美を持つ作品と、和の空間との親和性を体現できる展覧会が、京都の禅寺〈両足院〉で開催中です。

方丈の広縁に置かれたラウンジチェア《PK20》。脚部と座面の設置点はほんのわずかで、曲線の美しさを際立たせている。ミニマルなデザインが禅寺の佇まいと呼応する。

若くして家具職人としての修行を積み、のちにコペンハーゲンのデンマーク美術工芸学校で学んだケアホルム。当時から建築素材であるスチールに魅了され、木などの天然素材と同様に芸術的な敬意に値すると考えていたという。 卒業制作としてデザインされた《PK25》は、 継ぎ目のないアーチ状に曲げた一片のスチールと麻ひもとで構成されたチェア。今なお人気の高い名作からは、ケアホルムの素材に対する熱意と美意識が伝わってくる。残念ながら1980年、51歳の若さで亡くなるまでに発表された作品はどれも、計算され尽くした絶妙なバランスで成り立つシンプルな構造。パーツの一つひとつまでが洗練されており、余分なものはない。その細部にまで宿る美を知ることのできる展覧会である。

日本建築とケアホルム作品との親和性の高さが感じられる、大書院の光景。〈両足院〉の持つ控え目な美に作品との共通項を感じたと、本展の開催にあたり来日したトーマス・ケアホルムは話す。

かねてより、日本の伝統的な和の空間とも自然に調和することでも知られてきたケアホルムの作品。その親和性について、建築家である妻のハンナ・ケアホルムとの間の2人の子ども、トーマスとクリスティーヌはこのような言葉を寄せている。

「母が設計し、父が家具を手がけた私たちの家は、単なる生活の場を超え、両親それぞれが受けた芸術的・哲学的な影響を具現化したものでした。その一つが繊細でありながらも深遠な日本のデザインです。母方の祖父は日本語を学び、何度も日本を訪れ、シンプルで美しい日本の美意識と、その豊かな文化に深い感銘を受けていました」

「私たちが生まれ育った家で大切にされていたのは『間』。この『間』という考え方は日本建築の中で重要な要素であり、母はその概念を深く理解し設計に活かしていました。そして父がこの家のためにデザインした家具は、意図的でありながらも、極めて自然に母の建築的思想を引き立てるものでした。床との関係性を大切にしたミニマルで無駄のないデザインは空間との一体感を生み出し、光と影が交わるための余白を持たせる静かなる優雅さがあり、シンプルな調和を重んじる日本の伝統的な建築空間にも通じるものがある。

父は主にデンマークのモダニズムの影響を受けていましたが、日本のデザインとの共通点は否定できません。彼の家具が生み出す開放感と、呼吸や思索の余白を残すデザインは、日本の『間』という概念に通じています。この展覧会では、日本が両親に与えたインスピレーションがひとつの縁を完結させたようにも感じています」
(トーマス・ケアホルム)

例年、京都のなかでも遅く色づく紅葉が残る〈両足院〉の、庭の池越しに見る大書院。コペンハーゲンの北、フルムベックの街にあり、海に面して建てられているケアホルム邸と同様、窓の外に自然が感じられる。
通常は非公開の〈両足院〉。会場の運営は家具を中心に北欧デザインの研究を行う、多田羅景太研究室を中心とした京都工芸繊維大学の学生たちがサポートする。

会場となった〈両足院〉は京都・祇園にある〈建仁寺〉塔頭のひとつ。静寂と洗練が共存する歴史ある寺院だ。手入れの行き届いた庭を持つ大書院は、天井の低さや窓の外に広がる自然の景色にケアホルム自邸と通じるものがあるという。

自邸のためにデザインしたダイニングテーブル《PK54》と椅子《PK9》。対照的な素材と形に対する探究心が感じられる作品は、畳の上に置かれても違和感がない。
デイベッド《PK80》は、歴史的な作品を洗練し、そのデザインの本質を引き出すというケアホルムの才能を具現化した作品とされる。
短期間ではあるもののフリッツ・ハンセンに在籍していた1952年にデザインされた、ラウンジチェア《PK0 A》。低い位置にある家具は、部屋から見る庭の景色を邪魔しない。

展示されているのは代表作であるラウンジチェア《PK24》、デイベッドの《PK80》、1952年にデザインされつつも2022年にようやく製品化された《PK0 A》など、自邸でも使われている家具の数々。それらは静けさを持ちならがも圧倒的な存在感を放ち、日本の伝統建築との完璧な調和をみせる。さまざまな椅子に自由に腰掛けて庭を眺め、空間との相性を体感できるのが何よりの贅沢だ。

方丈の展示風景。パーツの一つひとつがオブジェのようでもある。再度組み立てれば家具として完成するというシンプルさもケアホルム作品の大きな特徴。
障子の桟と呼応して美を感じさせる、《PK22 》のスチールの脚。
3点のテーブルを入れ子式に収納できるネストテーブル《PK71》。その足がオブジェとして庭を彩る。

もう一つの展示空間である方丈は雰囲気が一変する。ケアホルムの家具の美しさの神髄である構造を伝えるべく、細部にまでこだわり抜いたパーツがアイテムごとに展示されているのだ。このアイデアはかつて、’70年代にケアホルム自身のディレクションで開催された展覧会からインスピレーションを受けたもの。強度を求めながらもデザインの一部として美をまとったネジ、自然界の意匠を屋内に持ち込む役割を果たした石など、さまざまな角度からケアホルムの美意識を読み解くことが可能。分解されることでミニマルな美が強調されるパーツは、その規則正しい連続性などにおいて日本建築に通じるものがあることにも気付かされる。広縁に置かれた椅子に掛け、思いを馳せるのもいい。

茶室の真新しい障子は、本展に併せ新たに仕立てたもの。2022年にフリッツ・ハンセンの創立150年を記念して復刻された《PK60》の図面が描かれている。棚として使われているのは《PK71》。
『POUL KJÆRHOLM 共鳴する日本の美意識』(フリッツ・ハンセン)4,500円は〈KIGENZEN〉の監修により、幅允孝が編集、須山悠里がブックデザインを手がけた。矢吹健巳が撮り下ろした写真に加え、ケアホルムファミリーの写真も収録されている。図録として販売されている。

本展に合わせケアホルムのしつらえとなった茶室では、江戸時代の天目茶碗で抹茶やコーヒーをいただく茶席が用意されている。図録でもある書籍『POUL KJÆRHOLM 共鳴する日本の美意識』を手にすれば、さらに深く理解するガイドとなるはずだ。

ケアホルムの没後、その家具のすべてを製造販売してきたフリッツ・ハンセンによる新たな試みとなった本展。デンマークデザインと日本の伝統建築が交差する場で、ケアホルムの普遍的な美に触れ、素材や構造が織りなす調和とともに実証された親和性を体感したい。

『ポール・ケアホルム展 in 京都』

〈両足院〉京都府京都市東山区小松町591。TEL03・3400・3107(フリッツ・ハンセン)。〜2025年1月19日(12月31日〜1月3日休館)。13時〜17時(最終入場16時30分)。入場料1,000円(現金のみ)。オンライン予約優先入場。


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