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【独占インタビュー】巨匠フィリップ・スタルクの知性とユーモアのあるデザインの秘密に迫る。

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December 28, 2024 | Design

スペイン・バレンシアの家具メーカー〈アンドリューワールド〉から木製家具を発表するデザイン界のレジェンド、フィリップ・スタルク。今秋、新作発表のために来日した彼に独占インタビューを行った。

新作を抱えて撮影に臨むフィリップ・スタルク。
抱えるのは、ネジや金具を使わずに3つのパーツを組み合わせる《アデラレックス》。プライウッドによってスタルクらしい造詣美を得た。

1955年に創業した〈アンドリューワールド〉は曲木家具に始まり、その後もさまざまな素材で家具を発表してきたスペイン・バレンシアの家具メーカー。2021年より同社で家具を発表するフィリップ・スタルクは、サステナブルな木製家具の開発を依頼されたと振り返る。

これまで数々の名作をデザインしてきたスタルクは、その人生の多くをプラスチック製品のデザインに費やしてきたという。イタリアの家具メーカー〈カルテル〉から発表した《ルイゴースト》は、歴史的な様式を参照しつつも素材をプラスチックに置き換えたことでデザイン史に大きな影響を与えた。「しかしいま私は森の中で暮らしています」と、スタルクは切り出した。

「モダンかつファッショナブルなライフスタイルとは縁遠く、たくさんの木々とともに暮らしています。プラスチックで多くのデザインをしてきましたが、いまは木の家具をデザインしたいという思いが強くなっています。これからの時代における木材の最適な活用方法を考えるうちにたどりついたのがプライウッド(成形合板)でした」

京都のアルクファニチャーポイントを会場に、これまでスタルクがデザインしてきた〈アンドリューワールド〉の製品が揃った。
手前は《アラオケージョナルテーブル》、左は《ネイザーオケージョナルテーブル》、奥は《マリヤソファ》。

木材でなにかを作るためには、残念ながら美しい木を切る必要があるとスタルクはいう。そこで大きな木材でわずかなテーブルを作るよりも、木材を紙のように薄くスライスしたプライウッドで100のテーブルを作るほうがいいのではないか。だからこそプライウッドはこれからの木製家具に欠かせない技術だとしながら、同時にプライウッドの家具は平滑な表情になりがちだとも指摘する。そこで必要なのが知恵だと続ける。

「私たちが試みたのは2Dプラスともいうべき表現です。2D(=二次曲面)を3D(=三次曲面)に変えること自体は珍しくありませんが、非常に高価なものになってしまう。そこでここでは二次曲面に少し手を加えることで、高コストにならずに面白い表現ができることを発見しました」

スタルクはこれまでもたびたびプライウッドをデザインに取り込んできた。1982年にはパリ・レアールで〈カフェコスト〉のインテリアデザインを手がけているが、その空間のための椅子〈コステス〉をプライウッドを用いてデザイン。これは現在も販売が続く名作だが、他にもプライウッド製のコンセプトモデルカーを発表するなど意欲的に使用を続けてきた。

プライウッドの造詣力を活かし、木目の美しさにも着目した《フォレスト・クラブ・ソファ》。
資料が載るのは《タマラ・テーブル》。

「コンセプトカー! すっかり忘れていたよ。そもそも私が木材に関心をもったのはもっと若い、14歳の時。木の皮を剥がし、なにかを作れないかと試みました。プライウッドはデザイナーとして活動を始めた初期から大好きな素材。そして限られた予算で新しく興味深いなにかを作るのに欠かせない存在です。コンセプトカーも、自動車に欠かせない鉄鋼に代わるクリエイティブでエコロジカルでデザインを楽しめる素材としてプライウッドの可能性を考えたものです。私はテクニックについて話すのは嫌いだけど、このコレクションではもともとある技術(プライウッド)のテクノロジーをあらためて突き詰めることで素晴らしいフォルムに辿り着きました」

〈アデラ・レックス〉は、カーブを追求することで木の使用量を抑え、製造におけるエネルギー消費も抑えることができた椅子だという。続けて「誰かが神はディテールに宿ると言いましたが、実際には悪魔的なもの」だとうそぶく。

「それでも私はクオリティを突き詰めねばなりません。クオリティとはつまりディテール。この椅子がなくても誰かが死ぬことはありませんが、誰かの人生を豊かにすることはできます。二年もすればゴミになるトレンドの家具は不要です。本当に必要なものであるなら、人は購入します。自身、子ども、孫、さらにその後の世代まで。後世への遺産となるものこそが、いま最も現代的なあり方で最大のエコロジーな考えだからです」

そして自身を指差し、「私を見てください」という。

「なにより私が完璧な例です。とても古く、とても美しい形で、とても良いコンピューターをもっている。さらに、たまに面白いのだから」

組み立てるパーツまでプライウッドとし、単一素材でデザインされた家具を多く発表する。
ソファやオフィスチェアなど、製品に応じて異素材も使用。幅広いデザイン力はさすが。

さらにスタルクはプラスチックを悪者にしてはならないとも。

「本来プラスチックは知的な素材。人類があまりに多く使いすぎたことでネガティブなイメージがついてしまいました。ある意味でメディアが人々に混乱を与えていると言えます。彼らは数分しか使わないビニール袋が200年に渡って海に留まることを憂慮しています。たしかにそれは良くない。けれど椅子は100年にわたって使用できる。つまり時間を分けて考えることがとても重要です。だからこそ皆さんには本質的にエコロジカルであることの意味を考えてほしい。AIを使った椅子もデザインしましたが、これは最小限のエネルギーと最小限のマテリアリティで製造できる椅子であることが重要なのです。そしてバイオプラスチックという生分解性の素材という理想的な素材も登場しました。なにより私の仕事はプラスチックや木を作ることではなく、次のインテリジェントなあり方をデザインすることなのですから」

《Circular Economy Series》

サーキュラー・エコノミーに基づく家具コレクション。EPEA(ヨーロッパの環境保護促進機関)の定めるグローバル環境認証〈クレードル・トゥ・クレードル®〉を取得し、現在のコレクション12点はいずれも100%持続可能な製品。木材はアンドリューワールドが所有するFSC®認証を受けた森で再植林された樹木を使用する。

フィリップ・スタルク

1949年フランス・パリ生まれ。パリのカマンド装飾美術学校卒業後、ピエール・カルダンでアートディレクターとしてインテリアと家具のデザインを担当。独立後の1982年には大統領官邸であるエリゼ宮殿の内装を担当し注目を集める。インテリア、家具だけでなく、さまざまなプロダクトを発表し、世界的に活躍する。


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