December 19, 2024 | Travel, Architecture, Design | casabrutus.com
アメリカ西海岸の港町・シアトル。ダウンタウンの中心部をタクシーで流していると、2643枚以上のガラス板からなる球体ドームが出現して驚かされます。これはAmazonの本社にある〈スフィアーズ(The Spheres)〉。内部には世界30カ国から集められた4万本以上の植物が生い茂り、オフィスというよりさながら“都市型熱帯雨林”です。毎月第1、第3土曜日には一般向けにも無料公開されており、事前予約制でツーリストも中を見学できます。
● 世界的大企業の本社が集まる街で存在感を放つ、Amazon〈スフィアーズ〉

成田・羽田から片道約8、9時間と、比較的短いフライト時間で渡航できるアメリカ都市の一つが、ワシントン州シアトルだ。世界的大企業がいくつも本社を構える街として知られ、歴史的には世界最大級の航空機メーカー・ボーイング カンパニーの本社にちなみ「Jet City(ジェットシティ)」として名を馳せてきた。


近年はマイクロソフト、エクスペディアなど大手IT企業の台頭に加え、スターバックスやコストコも本社を置くなどさまざまな産業が活性化。全米で最も平均年収の高い街の一つに数えられるほどとなった。


なかでも圧倒的存在感を放つのが、世界最大級のオンラインショッピングプラットフォーム・Amazonの本社だ。1997年にシアトルで1つのオフィスを開設した同社は、いまやピュージェット湾沿いに40以上のオフィスビルを建てるまでに成長。その一部である3つの球体〈スフィアーズ〉は、2018年からAmazonの従業員がミーティングやリラックスをするスペースとして利用されている。

ドームの中に足を踏み入れると、約200品種、2万5000株の植物が生息する北米最大級の「生きている壁」や、南米アマゾンの熱帯雨林をはじめ世界各地からやってきた珍魚が泳ぐ大水槽、ワイルドな滝が出迎えてくれる。まさに都会の中のジャングルだ。

ガラス製ドームは温室となっており、グリーンが育つのに適した室温22℃、湿度60%をキープ。球体内の熱は、周辺のオフィスビルで捻出されたエネルギーを再利用するエコシステムだ。さまざまな角度から日光があたるのは独特の形状がもたらしてくれる恩恵。調光を計算しつくされた150以上の照明も植物たちを照らしている。
まるでガラス空間に浮かんでいるように見えるのは、木製の歩道〈キャノピーウォーク(The Canopy Walk)〉。つり橋のように動く歩道の上を歩くと、重さ約18トン・高さ約20mにも及ぶ大木「ルビの木」を一望できる。

〈キャノピーウォーク〉を散歩していると、やがて鳥の巣のようであり、ツリーハウスのようでもある不思議な形状の空間〈バードケージ〉に遭遇する。まるで雛鳥になったような、いつもの自分とは異なる視点・感覚を得られる不思議な場所だ。このほかにも球体内には休憩に適したブースや椅子がいたるところに設けられており、 グリーンに囲まれて仕事をすることで斬新なアイディアを閃きやすくなる効果を狙っているのだとか。こんなオフィスで仕事ができるAmazon本社の従業員が羨ましい限りだ。

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〈The Spheres〉
2111 7th Avenue, Seattle, WA 98121, USA 一般向け公開:毎月第 1 、第 3 土曜日 10:00〜16:00 (要事前予約) The Spheres Tours Booking Page
● 球体内レストランで堪能する注目シェフの味〈Willmott's Ghost〉

〈スフィアーズ〉を見学したあとは、球体内で営業許可を得ている数少ない店〈Willmott's Ghost〉でランチかディナーを楽しみたい。食のアカデミー賞と呼ばれる「ジェームス・ビアード賞(James Beard Foundation Awards)」を受賞し、いま注目度急上昇中の女性シェフ、レニー・エリクソンが手掛ける人気店だ。

イタリアの食文化であるアペリティーボとフリッティで迎えられたら、ローマ料理にインスパイアされたピッツァやパスタ、直火焼き料理、新鮮な食材が織りなす季節の料理、イタリアンワインなどに舌鼓を打ちたい。これらの料理を光に満ちた空間で堪能できるのはガラス球体内のレストランならではの贅沢だ。店内には“The Spheres”、つまり“球体”を彷彿とさせる形のソファーや照明、カウンターチェアーが配され、深緑と薄ピンクのテーマカラーのコントラストは上品でありながらかわいらしい。ガラスの壁の外にはグリーンが茂り、ここがAmazon本社〈スフィアーズ〉なのだと改めて実感できる。

ちなみに店名は、英国の有名な植物学者、エレン・ウィルモットが特に愛したトゲのある植物の一つ「ウィルモットのゴースト(Willmott’s Ghost)」に由来する。世界中の植物学者に影響を与えた彼女はガーデナーとしても知られており、日々〈スフィアーズ〉内のグリーンの世話する園芸チームの姿ともリンクする。植物への情熱に敬意を表したネーミングとなっている。
〈Willmott's Ghost〉
2100 6th Ave, Seattle, WA 98121 , USA
● 夢にみた“近未来のスーパー”はもう存在する〈Amazon Fresh〉

Amazon本社のお膝元に来たからには、日本に未上陸の“店を出るだけで支払いが完了する実店舗のスーパーマーケット〈Amazon Fresh〉も体験しておきたい。
Amazonが開発した「Just Walk Out」の技術が採用されており、入店時にAmazon Goアプリをスキャンすることで、店内のカメラがどの商品を手にとったかを自動的に認識。Amazonアカウントに紐づけられた支払い情報と連動し、顧客はレジに並ぶことなく購入が完了する。
さらに近代化した「Amazon One」というID認証システムも導入されている。アプリを使用せず、あらかじめ登録しておいた自分の手の平をかざして入店し、商品をピックアップしてそのまま外へ出れば支払いが完了するのだ。



もはやスマートフォンをわざわざ出す必要もなく買い物を完了できるとは、スマートがすぎる……。日本にもいずれやってくるかもしれない近未来のスーパーは、すでにシアトルにあった。
〈Amazon Fresh〉
610 E Pike St, Seattle, WA 98122, USA