November 17, 2024 | Design | casabrutus.com
渋谷に移転オープンした〈フロス〉の新しいショールームを、照明のトップデザイナー、マイケル・アナスタシアデスが訪ねました。彼が初めて〈フロス〉から発表した《IC ライツ》の10周年のアニバーサリーを記念し、スペシャルエディションもお披露目に。この10年間、世界中で広く愛され新たなアイコンとなった名作について話を聞きました。
60年以上にわたり、照明デザインの名作を生み出し続けるイタリアの照明メーカー、〈フロス〉が渋谷に新ショールームをオープンした。〈都民の城〉(旧こどもの城)にほど近い場所にサイズの異なる窓がランダムに並ぶ建物は、青木淳による設計だ。
天井高5mという広々とした空間は緩やかに仕切られ、イタリアの建築家・アッキーレ・カスティリオーニをはじめとする巨匠から、現代のトップを走るデザイナーまで、異なるデザイナーの作品がそれぞれ個性的な光を放っている。
その中でもポエティックで彫刻的なマイケル・アナスタシアデスによるコレクションは、ひときわ目を引く存在だ。
「ひとつひとつの照明が際立っていて、それぞれの魅力が伝わってきますね」とショールームを訪れたアナスタシアデス。
2014年に発表されると同時に、人気に火が付いた《IC ライツ》は今年で10周年を迎えた。彼がコンタクトジャグリングにインスパイアされて生まれたというデザインは、今ではブランドを象徴する名作のひとつだ。
「正直ここまで皆に愛されると思っていなかったので、うれしいサプライズでしたね。デザイン好きのみならず、あらゆる階層の人々に届いている民主的なデザイン。多くの粗悪なコピー品も出回っていますが(笑)、照明以外にも真鍮と球体の組み合わせ自体もよく見かけるようになりました。《IC ライツ》はプロダクトを超えて、オリジナルだけどアノニマスな存在で、多くの人が話す“言語”を作ったとも言えるでしょう。そんな言語を生み出せたということはとても誇らしい」
10周年を記念した24金仕上げの《IC 10 Anninversary》も発表された。「ジュエリーやアートピースのように、長年にわたり愛されるコレクションを讃え、永遠の象徴としてゴールドを選びました」アナスタシアデスは言う。
ギリシャのキプロス島出身の彼にとって、フロスとの協業は夢のようなできごとだという。
「小さな島で育った私は、イタリアデザインを扱う一軒の店で、よくフロスのデザインも見ていました。インターネットもない時代で文化的なものへの憧れが強く、当時はなぜ惹かれるのかわからなかったけれど、今思えば私のデザイン、日用品の中にある美や詩的なものへの関心はここから生まれたのかもしれません」
その後自身で照明ブランドを立ち上げた彼だが、〈フロス〉のもつ知識や技術によってこれまでできなかったことが可能になったという。
「強力な開発チームに支えられて、すべてのプロセスでディテールまで徹底的にこだわることができる。暖かく迎えてくれる世界中のチームは、家族のような存在です。そういう企業は多くはないし、こうした環境がいいデザインを生む基礎になっていると感じます」
《ストリング ライト》《アレンジメンツ》《コーディネーツ》など、彼の作品は使い方が自由なものが多く、ユーザーをクリエイティブにする。
「使い方は個々のユーザーに委ねたいと常々思っています。一般的にデザイナーはイメージを大切にしたがるけれど、デザインは違う。デザインとは、ものを作り世に出すこと。送り出したものが世の中でどう使われても、デザイナーはそれを受け入れなければならない。誰にでも選ぶ自由があるし、使い方はコントロールすべきではないしね。最近はSNSを通じて多くの人が私の作品の写真を送ってくれたり、タグしてくれる。そんな時はすぐシェアするようにしているんですよ。コレクターが美しくセットした完璧な世界にあるものだけではなくて、どんな風に解釈されたものでもね。詰まるところプロダクトデザインはプロダクトデザイン、ファッションはファッションなんです」
ショールームでは、家具見本市のためのシンプルな家具や什器など、照明以外のマイケルのデザインに触れることもできる。
イッセイ ミヤケとのコラボレーションで改めて注目されるロナン・ブルレックの《セラミック》や、カナダ人デザイナー、フィリップ・マロウィンによる《ビルボケ》など、日本に上陸したばかりのデザイナーの最新作も勢揃い。新旧の照明デザインの逸品を一覧できる最新スポットを、ぜひ訪れてみたい。
〈FLOS JAPAN SHOWROOM〉
東京都渋谷区渋谷1-3-3 ヒューリック青山第二ビル 2F TEL 03 6421 0840。11時~17時。 土曜・日曜・祝日休。要予約(訪問の24時間前までに電話にて)。