May 12, 2017 | Art, Architecture, Fashion | casabrutus.com | photo_Kunihiro Fukumori
text_Ai Sakamoto
editor_Keiko Kusano
世界的なハイジュエラー、ヴァン クリーフ&アーペルの宝飾品と、日本が誇る伝統的な工芸品。それらを生み出す“技”に着目した展覧会が、〈京都国立近代美術館〉で8月6日まで開催中。会場構成を手がけた建築家・藤本壮介のコメントを交えながら、見どころをご紹介します。
1906年、パリのヴァンドーム広場で創業したヴァン クリーフ&アーペル。宝石を支える爪を表からは見せない「ミステリーセッティング」の開発など、独自のスタイルと優れた技術で、世界的に知られるハイジュエリーメゾンである。そんなメゾンが誇るアートピースを間近に見られる機会があるのをご存じだろうか? 年に一度、世界で一つの美術館でのみ開催される展覧会。それが今年、〈京都国立近代美術館〉で開かれているのだ。
『技を極める—ヴァン クリーフ&アーペル ハイジュエリーと日本の工芸』と題された展覧会ではそのタイトル通り、ヴァン クリーフ&アーペルの宝飾品と、七宝や陶芸、漆芸、金工といった日本の工芸を同じ空間に展示することで、それらを作り出した日仏の職人技を対比。高い完成度や精緻な作り、圧倒的な美しさを通して、国や文化の違いを超えた、“極められた技”の共通性や親和性を見出す仕掛けになっている。
3つのセクション(展示室)とワークショップから成る会場のデザインは、藤本壮介が担当。国内外で数多くのプロジェクトを手がける若手建築家で、『二川幸夫・建築写真の原点 日本の民家一九五五展』(パナソニック 汐留ミュージアムほか)や『Future Beauty』展(東京都現代美術館ほか)など展覧会の会場構成にも精力的に携わっている。今回は、展覧会のオープニングに際して藤本にインタビューを敢行。現地リポートと合わせて、会場構成にまつわるコメントも紹介する。
まずは階段を上がって、第1展示室「ヴァン クリーフ&アーペルの歴史」へ。黒い壁に囲まれた空間の中央に、長さ18mもの長いカウンターが置かれている。その上に所狭しと並ぶのは、ジュエリーを収めた大小のアクリルボックス。1世紀以上に渡って作られてきたヴァン クリーフ&アーペルの作品約80点を時系列で展示することで、そのデザインや技術の変遷を概観できる仕組みだ。
国産ヒノキを使った展示台のイメージを「寿司屋のカウンター」と藤本は以前インタビューで話していたが、カウンター前で横一列になって真剣に観賞している人々を見ていると、確かにそんな気も…。通常、展覧会などでは見ることのできない裏側を含めて、ジュエリーを360度どこからでも眺められる試みも面白い。この仕掛けは、3つの展示室すべてで共通している。
「裏側を見せることは、かなり初期の段階に決まりました。ヴァン クリーフ&アーペルのジュエリーの美しさは、高い技術力によって支えられていて、彼らはそれをとても誇りに思っています。だからこそ、その粋が詰まった裏側を見せることも厭わない。ジュエリーにせよ、工芸にせよ、そんな強い力を持つ“本物”を展示する空間をデザインするにあたり、今回僕がもっとも気を使ったのは什器でした。必要だったのは“本物”を受け止められる高級感や存在感。第1展示室のケースにいたってはモックアップをいくつか作ってもらい、アクリルの厚みや固定の仕方、ビスの見え方などを検証しました。建築でいうところの“ディテール”をきちんと詰める必要性があったんです」
第2展示室のタイトルは「技を極める」。超絶技巧により精緻を極めた、明治〜大正時代を中心とする日本の工芸品約40点と、20世紀前半に制作されたジュエリー約100点をランダムに展示する。ユニークなのは、その空間。大判のガラスケースを幾重にも配置した展示室の入口に立つと、数多の光が目に飛び込んでくる。ジュエリーの輝きと照明、そしてガラスへの写り込みが重なり合い、空間が無限に続いているかのようだ。ここで藤本が意図したのは“日本的な空間意識”だったという。
「日本建築の中で襖が作り出す奥行きのような、もしくは水墨画で遠くのものをぼかすことで生まれる遠近法のような、日本の伝統的な空気感を出したいと思ったんです。物理的に小さなジュエリーや工芸品と、展示空間、そして(人々の)体験をどう繋いでいくか? その点、日本的な空間の中でジュエリーと工芸がうまく溶け合った、この第2展示室は、想像以上にキレイで驚きました(笑)」
最後の展示となる第3展示室「文化の融合と未来」で待っているのは、コンテンポラリーな作品同士のコラボレーション。重要無形文化財保持者(人間国宝)として知られる染織家・北村武資や、同じく友禅作家の森口邦彦、螺鈿や玉虫の羽根を用いた蒔絵で評価の高い漆芸家・服部峻昇らの作品約20点と、20世紀後半以降のジュエリー約80点を組み合わせて展示することで、それらの融合を図っている。
順路があらかじめ決まっている第1と第2に対し、ここでのルートは自由。細長いアクリルケースが林立する竹林のような空間を人々は自由に見て歩く。「(この展示室のテーマは現代から未来だから)未来がわからないのと同じように、経路も限定しない」と藤本が言うように、ルートも見方も観覧者に委ねられている。
「〈京都国立近代美術館〉は、展示室の配置がロの字型で天井の高さも同じなので、各室でどう変化をつけるかが重要でした。角を曲がる度、違う空間を出現させたいと思った。中でも第3展示室は他の2つに比べて、展示品の大きさもさまざまだったので、より自由に見えることを意識。展覧会のクライマックスに何を見るかも含めて、観覧者に委ねる“開いた感じ”が面白い。おかげで、異なる世界観を持った各セクションが、互いにいい影響を与え合う会場作りができました。一般的なジュエリーの展覧会とは一線を画す見せ方ができたと思っています」
藤本壮介
1971年北海道生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、2000年藤本壮介建築設計事務所を設立。14年フランス・モンペリエ国際設計競技最優秀賞、15年パリ・サクレー・エコール・ポリテクニーク・ラーニングセンター国際設計競技最優秀賞、16年Réinventer Paris国際設計競技ポルトマイヨ・パーシング地区最優秀賞を受賞。主な作品に、〈サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013〉〈House NA〉〈武蔵野美術大学図書館〉〈House N〉などがある。
『技を極める—ヴァン クリーフ&アーペル ハイジュエリーと日本の工芸』
〈京都国立近代美術館〉京都市左京区岡崎円勝寺町 TEL 075 761 4111。〜8月6日。9時30分~17時(金・土〜20時)。※7月1日から8月5日の金・土は〜21時。月曜、6月13日、7月18日休。7月17日は開館。一般1500円。公式サイト