October 2, 2024 | Fashion
世界で最も評価されるプロダクトデザイナーのジョニー・アイブ。そのクリエイティブチーム〈LoveFrom〉が情熱を注いだ、〈モンクレール〉の驚くべき新コレクション〈LoveFrom, Moncler〉を紹介します。10月10日発売予定。
伝説のデザイナーとその理解者との情熱的で幸福な共同作業とは?
〈モンクレール ジーニアス〉で世界の名だたるクリエイターとタッグを組んできた〈モンクレール〉CEOのレモ・ルッフィーニ。躍進を続けるブランドのトップがクリエイティブパートナーとして指名したのは、ジョニー・アイブ。〈アップル〉の全盛期を支えた天才デザイナーだ。
「〈アップル〉で30年近く働いて、いろんなプロジェクトを経験しました。そのなかで気づいたのはクリエイティブな仕事において大切なことは、何をつくるかではなく、誰と組み、どのようにプロセスを追って物事を進めていくかということ。切磋琢磨しながら、共に歩幅を合わせて進んでいける相手がいるからこそ、コラボレーションが可能となる。そういう意味でも、レモやモンクレールチームは、僕にとって最高の相手でした」
こう話すジョニーに対し、レモも笑顔で答える。
「ジョニーが最初に見せてくれたのは、詳細な企画やデザインプランではなく、折り紙のようなもので、驚きました。でも話を進めるほどに、彼がいかにモノのかたちだけに限らず、ものづくりの背景にあるエンジニアリングや技術への関心を示し、実際に使用したときに身体で感じ取る手触りや、目には見えないほどのディテールにまでこだわり抜くなど、驚くほど広い視野から物事を観察し、思考を巡らせていることを実感。これまでも彼の偉業をたくさん見てきましたが、今回のプロジェクトを通じて、彼はものが生まれるプロセスや環境全体をデザインしているんだと理解できました」
花のような一枚の布から、服のかたちが自然に立ち上がる独創的なパターン、マグネットボタンを応用した固定の仕組みなど、触れるものの好奇心をくすぐるアイデアの連続。既成概念にとらわれないジョニーの自由な発想に心動かされた〈モンクレール〉のチームメンバーも、エンジニアリングで応える。
「通常の服づくりは50cm幅の布を25~30パーツほど組み合わせてつくるのですが、今回はとても繊細なリサイクルナイロンを250cmの幅で仕上げることができる織機を開発。おかげで、1枚の布で完結する見事なアートピースができました」
成功を重ねても慢心せず、その先を追い求める。たゆまぬ探究心を持つ者同士だから見える美しい景色があるとジョニーは続ける。
「プロジェクトの間、レモとは何度もミーティングを重ねましたが、そのなかで商業的な成功や売り上げの達成といった数字の話は一度も出てきませんでした。純粋に好奇心に動かされ、信頼し、尊敬する相手だからこそ互いが求めることを叶えるために、さらに高みを目指す。これこそ真のコラボレーションのあるべき姿だと思います」
コアと呼ばれるインナージャケットとシェルという3種のアウターを自由に組み合わせるフレキシブルなスタイリング。さらにそれらを適切に重ね合わせるマグネットボタンに、ジョニーはかなりのこだわりを見せた。
「近年、ジッパーや面ファスナーにはさまざまな開発がなされていますが、装飾的な役割が大きいボタンには、あまり大きな変化がありません。ならば僕たちの力で、状況を揺り動かしていきたい。丈夫で使い勝手が良いという実用性はそのままに、布同士が自然にすっと引き寄せられる魅力的なボタンをつくろうと、とことん話し合いました」
ジョニーのものづくりの情熱を絶やさぬように、レモたちもチーム一丸となって道なき道を突き進んだ。
「ファッションデザイナーとは異なるジョニーのアプローチはとにかく刺激的。彼が辿る思考のプロセスを一つも見落とさぬよう、何度も振り返り、丁寧に学び取る。現状に満足することなく、常に次なるステップを探し求める姿勢こそが、ブランドを未来へ導いてくれると信じています」
ファッションにとどまらず、もっと社会や暮らしを広く捉え、人々の心を豊かに彩るものである。そう心から信じるレモが率いるチームだからこそ、ジョニー・アイブも最大の力が発揮できたプロジェクトだったと宣言する。
「確かに、彼らとの打ち合わせで“ファッション”について話し合ったことはなかったかもしれません。素材はどうする? 機構をどのようにまとめる? など、問題提起とその解決法について真剣に語り、突き進んできた。プロダクトが完成した今こそ、学んだすべてのことを次へと活かすチャンス。もしかしたらこれは終わりではなく、何かの始まりなのかもしれませんよ」