August 9, 2024 | Art, Design | casabrutus.com
目が描かれた葉が舞い降りてくる際にまばたきに見える《まばたきの葉》や、海や川を切り開いているように見える《ファスナーの船》等、日常に潜む小さな“発見”を作品化してきた、アーティスト鈴木康広の個展『ただ今、発見しています。』が二子玉川ライズ スタジオ & ホールにて開催中だ。タイトルの「発見」そして、「発券」に込めた思いを鈴木に聞いた。

「ただ今、発見しています」。この展覧会タイトルに聞き覚えはないだろうか。そう、駅で切符を発券する時に券売機から発せられるアナウンスである。アーティストの鈴木康広は、ある時「発券」を「発見」と聞き間違えた。そのエピソードからこの展覧会は始まったと鈴木は言う。
「僕は小さな頃から物分かりが悪くて、いつまでもわからないままずっと過ごしてきました。子どもの頃に感じた違和感や疑問は大人になってもずっと気になり続けていて、それを改めて発見するための道具をつくること、それが作品づくりになっているような気がします。世界をとらえ直すための道具づくりというか。文化村の方からこの企画を相談された時に、『アートとまだ出会っていない人を対象に、美術の面白さを伝えたい』と言われました。その時に、美術の発見、という言葉が浮かんできて、以前体験した発券機のエピソードを思い出し、“発見”そのものをテーマにしたらいいんじゃないか、という話になりました。
『ただいま発見しています』って、現在進行形ですよね。『発見しました』『発見する』とは言うけど、少し違和感を感じると思います。でも、今、この瞬間にも発見し続けている人はいるはずです。何かに夢中になっている子どもも、実はその子にしかわからない発見をしているけど自分では気づいていない。世界は“発見”に満ちている、ということに展示を通して気づいてもらえたら」

《空気の人》は極薄のプラスチック素材で作られた人である。大きさやポーズは様々あり、2007年に発表されてから、国内外様々な土地で展示されてきた。大きな空気の人はパンパンに膨れているように見えるが、それは常に空気を送り続けているからだ。体の中を空気が循環し、会場へとまた吹き出される。ひじょうに大きな存在感があるが、透明なので圧迫感がない。空気は目に見えないが、人の輪郭を得ることで可視化されているようにも見える。奥のモニターでは、世界各地で空気の人が浮かんでいる様子が映し出されていたが、国によって空気の人の意味がさらに広がるように思える。
《近所の地球 旅の道具》は、鈴木が発見し、それを形にし続けてきた歴史がギュッとひとつのスーツケースに収められたような展示である。キャベツを見て「器」を発見した鈴木が、キャベツの葉1枚1枚を紙粘土で型取った《キャベツの器》や、まばたきに着目した最初の作品である《まばたき眼鏡》、地球の重力を体感できる玩具《りんごのけん玉》等、日々の発見を留めておくように作品化された様々なアイデアが見られる。

本展覧会では、テーマである“発見”にちなんで新しく制作された《小さな発見機》も展示されている。
「これは、“小さな発見”という普段気づくことがないものを切符として発券する装置です。その時の発券した時刻が秒単位で記録され、僕のこれまで描いたスケッチとともに印刷されて出てくる。スケッチは僕にとっての発見ですが、このスケッチが皆さんにとっての新しい発見のスタートになり、お客さんそれぞれのスケッチに変わっていったらいいなと思います。この作品は有料なのですが、有料であることにも意味があって、お金を払うという体験も含めてしていただけたらと思います」
この小さな発見機には、日々の「発見」を見過ごさないで欲しいという作家の思いが込められている。
「ある時、電車の駅と駅の間って途中下車できないということに気づきました。それは、デジタルで町が刻まれているということでもあり、駅によってまちが規定されているということでもあります。徒歩というのは、1歩、半歩と自由に進んだり止まったりすることができる。極端なことを言うと、1ミリ動いただけで、足を動かさずに体のひねりを変えただけで世界は変わる、そう思いました。自分がふと止まった場所、そこが駅になるのだと思います。いつもと違う場所を歩いてみるとか、人がせわしなく歩いているなかで、ふと立ち止まることの意味を考えました」

展覧会場には、特に一つひとつの作品に説明などはつけられていないが、こうした足跡型のキャプションというかメッセージのようなものがちらほら点在している。作品解説というわけでもない、普段は語っていないちょっとしたエピソードが半透明のシートに書かれている。日々の発見を作品化し、その作品を展示することで新たな発見が得られ、次の作品へと昇華される。他にも「通常は役に立たないけれど、生活の中でふとした瞬間に心によみがえるもの、自分と同じような誰かがいつか必要とするものを探すような感覚で制作しています」等、制作全般にまつわる心の声のような足跡もあった。囁くような作家からの言葉を目にすると、何か新しい発見があるかもしれない。



証明写真を撮った時に、緊張してまばたきをしてしまい目が半分閉じた写真が撮れてしまったことはないだろうか。《まばたき証明写真》では、確実にまばたきをする瞬間の写真をおさえることができる。コインを入れて、カメラの前に座り、撮影ボタンを押す。しかし、カウントダウンなどのアナウンスは流れてこない。いつの間にか「撮影完了しました」という合図が流れ、撮影されているのである。この証明写真機は、まばたきをするタイミングでシャッターが下りる仕組みになっているのだ。
「展覧会にはアンケートボックスがよくありますが、今回の展示では作品の感想でももちろんいいのですが、作品を見て小さい頃の何かを思い出したとか、作品から何か違う発想を得たといったことを《発見の足跡》と命名し、足跡型の紙に書き残していっていただきたいと思います。僕もよくスケッチをノートに描いていますが、描き残さなければ気づくことができなかった発見が日々無数のようにあります。そういう些細な変化に気づけること自体がアートワークだなと思っています」
会場には、今回のメインビジュアルにもなった《足元の展望台》が何箇所か、小さな踏み台も数箇所に設置され、観客は物理的に目線の高さを変えながら展示空間を楽しむことができるよう工夫されている。《足元の展望台》は様々なサイズの白い足型だ。その上に人が乗ると足が拡張されたような、不思議な気分になる。高さは、階段の高さ、椅子の高さ、机の高さの3種類だ。ほんの少し背が高くなるだけで、見えるものがガラリと変わる。きっと子どもたちに喜んで体験してもらえる作品だろう。しかし、毎日スマホばかりを見て、周囲の景色などゆっくり見ることがない大人にこそ、このように遊びながら物理的に目線を変えて日常を見渡してみることが必要なのではないか。どの作品も、昔子どもだった大人たちに遊びながら体験して欲しい。きっと、すっかり忘れていた何か小さな「!」に気づくはずだ。
