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ポール・マッカートニーの秘蔵フィルムが解禁! ビートルズの熱狂を振り返る。

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August 9, 2024 | Culture, Art | casabrutus.com

東京・六本木の〈東京シティビュー〉 にて、『ポール・マッカートニー写真展 1963-64~Eyes of the Storm~』が開催中。ポールが撮った写真から鮮明に浮かび上がる、ビートルズの魅力と、彼らが21世紀のカルチャーやアートに与えた影響を深掘りします。

ポール撮影のジョン、ジョージ、リンゴ。4人で世界を変えた。小型カメラで可能になったスナップショット風も。John, George and Ringo, backstage. London, 1964. © 1964 Paul McCartney under exclusive license to MPL Archive LLP

2020年、ポール・マッカートニーのアーカイブから膨大なネガ・シートが発見された。これををきっかけに、『ポール・マッカートニー写真展』では、当時21歳のポールが、1963年から64年の間にペンタックス一眼レフで撮影していた写真を紹介する。ナショナル・ポートレート・ギャラリーとポール本人の企画によって世界を巡回している展覧会が、ついに東京・六本木の〈東京シティビュー〉に上陸した。

リヴァプールというイギリス北部(註:一般に南より貧しいとされる)の港町出身のジョン・レノン、リンゴ・スター、ジョージ・ハリスン、そしてポール・マッカートニーは、10代半ばに出会って音楽を始めた。ポールが写真に収めた1963年から64年という時期は、4人が急速にグローバルな名声の階段を駆け上がった重要なターニングポイント。なかでも本展の写真が撮影された1963年12月から1964年2月までの約3か月の間に、彼らはリヴァプールからロンドン、パリ、そしてアメリカへと移動してゆく。1964年2月にはニューヨークでテレビ番組『エド・サリヴァン・ショウ』に出演。アメリカのファンの前に初めて登場し、リアルタイムで73万人という記録的な視聴者数を叩き出した。

パリで捉えたジョン・レノンとジョージ・ハリソン。当時最新のファッション写真の影響もあったという。John and George. Paris, January 1964. © 1964 Paul McCartney under exclusive license to MPL Archive LLP

20世紀半ば、エルヴィス・プレスリーのようにインターナショナルな人気を誇ったシンガーやハリウッド俳優はいたが、ビートルズのように国境を超越するグローバルな人気とカリスマ性、そしてアーティスト性を誇った存在はいなかった。ステージに登場するやいなや、どのコンサート会場でも少女たちは絶叫し、熱狂は瞬く間に会場全体へと広がった。

本展示では、コンサートの舞台裏や、JFK空港の展望テラス、彼らが宿泊したプラザ・ホテル周辺の通りで溢れるばかりのファンが待ち受けている様子、メンバーに向かって駆け寄ってくる写真も観ることができる。これらの写真からは、ビートルズの登場が文化・芸術的、そして社会的に、時代を変えた「事件」だったことが読み取れるだろう。昨今では極めて普通になっている、こうしたすべてのこと( 今では“推し活”として遥かに整理され組織化されている)は、ビートルズの出現と共に現れたのである。

ファンの熱狂は当初彼らが待ち望んだ反応だったという。West 58th Street, crossing 6th Avenue. New York, February 1964. © 1964 Paul McCartney under exclusive license to MPL Archive LLP

しかし、それだけではポールの写真が伝えるものはパパラッチや報道のそれと変わらないということになる。タイトル通り、アートおよびカルチャー史の一大事件であるビートルズ旋風の中心であったポール本人から見た光景として、舞台裏のメンバーの表情、スタッフや業界人、ファン、都市の風景などの総数250点の写真を改めて観ていくと、ビートルズが起こした歴史の切断が偶然でなかったことが分かってくる。

シティビューで静かに展示を観る私たちの外側の世界でも、戦争や政争などの騒がしさが続いているが、それは1960年代と変わらない。当時もまた、ベトナム反戦運動、ケネディ大統領暗殺、第二次フェミニズム――すなわち“性と政治の季節”であった。一方エンターテイメントでは、ノウハウを蓄積した業界の大人たちに指導され、アイドルたちが高度な芸を披露するという状況であった。このような中で、ビートルズの4人は、自分たちは世界のどこにいてそれはなぜなのかという問いの答えが手に入らぬことへの焦燥感と衝動を、そしてその先にあるはずの自由の楽しさ(と怖さ)を、ブラック・ミュージックから大胆に借用し自分たちと重ね合わせ音楽とスタイルを通して表現した。展示にもあるデビュー当時のマネージャー、ブライアン・エプスタインのいう“率直さ”という言葉はそのことの革新性を控え目に述べたものだ。ポールの写真の魅力と同じく、それは第一義として技巧の完成度とやらではない。

マイアミの陽光の下で、すまし顔のジョージ。George Harrison. Miami Beach, February 1964. © 1964 Paul McCartney under exclusive license to MPL Archive LLP

リヴァプール/ロンドン/パリで撮影されたモノトーンの彼らはスーツに身を包みながらも前髪を垂らし、表情やポーズはユーモアや遊び心に溢れて見える。しかしながら、彼らの周囲の世界は、取り巻く大人たちも同世代もポールが言うところの「親の世代のイギリス」の質素な倫理や階級、ジェンダー規範に未だ沿っているようだ。4人だけに漂う解放への予感は、展示の後半、マイアミのスイミング・プールで撮影された、突如カラフルなイメージの群れとして鮮やかに現れる。彼らの成功への階段の舞台となったアメリカという国の若さと“ポップ”は相性がいい。

"Eyes of the Storm"を評して、若さやデモクラティックな価値への信頼とビートルズの体現したポップ・ミュージック/カルチャーはどこかで結ばれている、という評論家めいた物言いも可能だ。しかし、彼らの音楽もポールの写真もそのような語り口調を好まない。そうではない伝え方の可能性の発見/転換こそが、ビートルズを、21世紀にまで続く“ポップ”時代の最初の顕れとしたのだ。故・坂本龍一の「ビートルズの音楽は100年後も残る」という発言が思い出されるような展示となっている。

『ポール・マッカートニー写真展 1963-64~Eyes of the Storm~』

〈東京シティビュー〉東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階。~2024年9月24日。10時~19時。金土は~20時。※入館は閉館の30分前まで。一般2,600円ほか。

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