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深澤直人の名言「…の空気をデザインしようといつも思っています。」【本と名言365】

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April 29, 2024 | Culture, Design | casabrutus.com

これまでになかった手法で、新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。世界的に活躍するデザイナー、深澤直人。その仕事は日常に溶け込む「ふつう」の形をしている。しかし「ふつう」とはなにか。自らのアトリエ建設にまつわる書籍に記されたデザイン哲学をキーワードに、その思想を紐解いていこう。

深澤直人/デザイナー

ものとものの間、ものと人の間、ものと壁の間の空気をデザインしようといつも思っています。

毎年4月になるとイタリア・ミラノはデザインで彩られる。世界最大規模の家具見本市・ミラノサローネとその開催に伴うデザインイベントが市内各地で展開されるからだ。そのミラノで大きな存在感を放つデザイナーのひとりが深澤直人。ヨーロッパを代表するメーカーを中心に発表される深澤のデザインは「ふつう」であることに大きな意味がある。

高校生のころにデザイナーになると決めた深澤は日本企業のインハウスデザイナーを経て渡米。急成長期にあったシリコンバレーのデザインコンサルファームに在籍したのち、帰国して独立する。独立早々に海外企業と仕事を始めた深澤は、2005年からデザイナーのジャスパー・モリソンとともにデザイン理念「スーパーノーマル」を提唱する。日常に溶け込む何気ないオブジェクトに宿る「ふつうを超えたふつうのデザイン」を通じ、真の意味でのグッドデザインを探る活動。深澤とモリソンがキュレーションした同名の展覧会も大きな話題を呼び、多くの人に影響を与えた。この頃から深澤がデザインする対象も長く使われる家具などが中心になる。

世界の企業が深澤に期待するのは長く愛されるデザインだ。人の想いや行動をすくいとるデザインは静かな存在感とともにアイコニックな強さももつ。深澤は自身のアトリエを通してデザイン思想を綴る『深澤直人のアトリエ』のなかで「ものとものの間、ものと人の間、ものと壁の間の空気をデザインしようといつも思っています」と書く。さらに文章は「それは雰囲気を醸し出す場だと思いますが、固まらず、流動的でありながら、細部まで緻密に考えられていなければなりません。硬直した空気ではありません。「ゆらぎ」といってもいいかもしれません」と続く。

2021年に竣工したアトリエには、椅子、テーブル、ソファ、照明、キッチンカウンター、家電、器、カトラリー、グラスなど、深澤のデザインした生活に根ざす道具が数多く並ぶ。実際にこれらを使いながら、深澤はデザインの思索を深めている。本書では建築のありようから石の組み方まで、驚くほどに隅々までデザインのあり方を考察した過程を書いた。深澤がデザインから恣意性を取り除こうと試みるのは、デザインはデザインのためにあるのではなく、人のためにあるからだ。「ふつうのデザイン」とはまさに人のためにあるデザインなのだ。

深澤直人自らが設計を主導した自宅兼アトリエでの生活から感じたこと、建てるうえで考えたことを綴ったエッセイ。生活へのヒントとなる深澤の言葉と美しい写真で構成される。『深澤直人のアトリエ』深澤直人著 平凡社 3,850円/2023年。

ふかさわ・なおと

1956年山梨県生まれ。多摩美術大学プロダクトデザイン学科卒業後、諏訪精工舎(現・セイコーエプソン)で先行開発のデザインを担当する。その後、渡米しID Two(現・IDEO サンフランシスコ)入社。2003年NAOTO FUKASAWA DESIGNを設立。日用品や電子精密機器からモビリティ、家具、インテリア、建築に至るまで、世界各地の企業のデザイン、コンサルティングを多数手がける。

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