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【本と名言365】中村好文|「普通でちょうどいい」

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March 25, 2024 | Culture, Architecture | casabrutus.com

これまでになかった手法で新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。住宅建築の名手と言われる建築家の中村好文。ある施主からの言葉によって確信した、自身が目指す住宅について。

中村好文/建築家

普通でちょうどいい

中村好文はビッグプロジェクトではなく、住宅設計と家具デザインをライクワークにする建築家だ。それまで150軒以上の住宅を手がけてきた中村が(2010年当時)、出版社から依頼されて制作したのが初の作品集『普通の住宅、普通の別荘』。その巻頭には、中村が依頼主から受け取る要望書について書かれている。それは依頼主の生活理念や希望する暮らし方、価値観、そして人柄を知るためのものさしであり、ある時、奈良に住む夫婦の要望書に書かれていた何気ない言葉に中村はハッとしたという。

「“普通でちょうどいい”。(中略)私が欲しいのは、たぶんそんな家だと思うんです」

自身の仕事を定義づけるピッタリの言葉が見つかり、長年胸の内に垂れ込めていた霧が晴れるような思いだったという中村。

「私が潜在的に目指していたものは、人々が目を瞠り、誰もが話題にせずにはいられない『特別なもの』ではなく、気張りもしないし、気取りもしない。背伸びもしないし、萎縮もしない。無理もしないし、無駄もしない。それでいてまっすぐに背筋の通った『普通のもの』でした。そして、用を満たすという観点や、美しさという視点からも、過不足なくほどよくバランスの取れた『ちょうどいいもの』でした」

そして、こう続ける。「私の設計する住宅は建築家のコンセプトや主義主張をそのまま形にした『作品』ではなく、そこに住まう市井の人々の暮らしの丸ごと放り込むことのできる『容器です』」

それは意匠的であったり、エゴイスティックな追求とは全く違うベクトルだ。住み手が等身大で暮らせる容器の数々が掲載された『普通の住宅、普通の別荘』を見ていると、自分らしい生き方とは何かが見えてくる。

設計時の思い出や施主からのメッセージ、書き下ろしのスケッチ図面、フォトグラファー・雨宮秀也による写真などを収録し、中村が家づくりで大事にしていることを伝える。『普通の住宅、普通の別荘』著・中村好文 TOTO出版 2,800円

なかむら・よしふみ

1948年千葉県生まれ。武蔵野美術大学建築学科卒業。吉村順三設計事務所に勤務後、設計事務所〈レミングハウス〉を設立。住宅建築、家具デザインを中心に活動。「三谷さんの家」で第一回吉岡賞。『住宅巡礼』(新潮社)、『百戦錬磨の台所vol.1、vol.2』(学芸出版社)など著書多数。

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