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【本と名言365】伊丹十三|「わたくしは別に料理に趣味を持つわけではないから、…」

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February 19, 2024 | Culture, Food | casabrutus.com

これまでになかった手法で新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。映画、テレビ、本などさまざまなメディアで活躍した伊丹十三。20代後半から30代前半に書かれた文章には、料理通としても知られる彼の片鱗がしっかり刻まれている。

伊丹十三/エッセイスト、映画監督

わたくしは別に料理に趣味を持つわけではないから、自分では至極簡単なものしか作らないことになっている。

映画俳優、グラフィックデザイナー、エッセイスト、翻訳家、雑誌「モノンクル」編集長にして映画監督の顔も持つ伊丹十三。まさに多才というほかないが、その上、料理の腕も一流と知られている。しかしながら20代後半から30代前半に書かれた一作目の著書『ヨーロッパ退屈日記』には、料理について控えめな言葉が綴られている。

「わたくしは別に料理に趣味を持つわけではないから、自分では至極簡単なものしか作らないことになっている。」ではどんなものを? というと「ピーマンをミジン切りにして鰹節と混ぜ、お醤油をかけて食べる」「生玉子を二つばかり割り、鰹節と海苔を山ほどかけてお醤油をたらし、かきまわして食べる」といった具合。またこの短文での肝はアーティショー、つまりアーティチョークだ。20分ほど茹でて冷蔵庫で冷やしたのち1枚ずつ剥がしてドレッシングにつけて食べるという。ドレッシングはオリーブオイルに「少々」絞ったレモン汁、「たっぷり」のブラック・ペッパー、「少量」の塩を入れて混ぜるだけ。簡単ではあるが、独自のこだわりが調味料の分量にも表れている。

書かれたのは1960年代の前半。映画『理由なき反抗』などでも知られるニコラス・レイ監督作『北京の55日』に出演するためスペイン、イギリス、フランスなどを訪れた頃の知見も含めた1冊。料理やカクテルについて、お洒落や美的感覚、握手についての考えなどが詰まったエッセイ集だ。高校で出会って以来、公私に渡り深い付き合いがあった作家・大江健三郎とのエピソードも読みどころ。

現・サントリーの広報誌「洋酒天国」56号(1963年)に掲載された文章と、「婦人画報」の連載などがまとまった1冊。1965年に発売。タイトルと「この本を読んでニヤッと笑ったら,...」のコピーは「洋酒天国」編集者で作家の山口瞳によるもの。装画は伊丹十三、解説は関川夏央。『ヨーロッパ退屈日記』伊丹十三著、新潮文庫/2005年。

いたみ・じゅうぞう

1933年京都生まれ。愛媛県立松山東高等学校で大江健三郎と知り合う。1954年に卒業したのち、上京し商業デザイナー、グラフィックデザイナーとして活動をスタート。映画俳優としても活動し、ヨーロッパを巡る。70年代にはテレビマンユニオンに参加しドキュメンタリー番組などの制作に携わる。81年には精神分析をテーマにした雑誌「モノンクル」を創刊、編集長を務めた。97年没。

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