November 25, 2016 | Vehicle, Architecture | Driven By Design | photo_Tatsuya Mine
text_Hiroki Iijima
シンボリックでありながら、景観に調和するコンクリート建築。新潟県の公共施設が今年の村野藤吾賞を受賞したと聞いて、プラグイン・ハイブリッドのアウディA3で向かいました。
夜間照明がつくとこの建築の魅力がさらに深まる。自然に暖かく発光している感覚がいい。夜10時まで開館し、中高生がロビーで勉強する姿も見られるここは、まさに「開かれた公共施設」なのだ。
新潟をクルマで走っていると、果てしのない平坦さにいつも驚く。この建物も決して高くはないのに屋上から佐渡や弥彦山があっさり見えてしまうほど。そう、高さは控えめで威圧感が少ない建築だが、全周どこから見ても格好良く据わりもいい。周りはごく普通の住宅街だが、すぐ横には同じ新居千秋設計による中学校の新築体育館もあり、この地域のおおらかな気配とマッチしている。この会館を設計するにあたっては市民とのワークショップを重ね、町の里山を思わせる形にしたというが、景観への親和性については大成功だろう。
外壁の仕上げ、ロビーや階段回りの柱の造形など見るべきものは多いが、どんな細部であろうとも丁寧に手が入れられているのはこの建築家が手がけたすぐ近くの江南区文化会館に通じるところ。今回もまた、メインの音楽ホールの内観が非常に刺激的だ。薄いグレーの壁の中で灼熱の炉が煌々と燃え盛っているような感じなのだ。「日本にはジェネリックな建築が多すぎる。唯一無二であれ」と批判し続ける新居のセンスと熱量の炸裂である。
「ホールも楽器の一部」と話す新居がこだわった音響の良さが自慢。市民も利用可(予約制)。
三次元にねじれた強度のある柱の内部は市民が使える音楽練習室となっている。
小さめなボディの内部には最新テクノロジーを凝縮。
新潟まで乗ったのはアウディのPHEV(プラグイン・ハイブリッド)車、A3のe-tronである。簡単に言えばEVとしても走ることのできるハイブリッド車で、このクルマの場合は約50kmの電気走行が可能だ。電気が切れたらそのままハイブリッド走行ができるので、充電を気にせず遠出ができる。PHEVが真価を発揮するのは日々の通勤など、片道数十km内を往復するようなパターン。夜のうちに自宅でフル充電しておき会社までEV走行、会社でも充電すれば帰宅時もということで、普段はガソリンいらずで生活できる。結果としてCO2排出量を減らし資源枯渇問題にも貢献できる、というのが自動車産業界の考え方だ。
このクルマはコンパクトだが、EV用の電池を床下に積んでいるため重心が低く乗り味がとても良い。値段は高いが小さな高級車としての実力十分というところ。クルマの電化は決して易しい技術ではないが、この建築同様、とことんこだわりつつも「公共物」であることを意識する、という姿勢が、なんとも素敵じゃないか。
周囲360度少しずつ違う様相をしている建物で、ついぐるりと一回り。
巡礼車:アウディ A3 Sportback e-tron
EUではPHEVを応援するため特別な燃費算出の計算式を使うが、このクルマでは何と約67km/リッターを達成。もちろん電気しか使わなければ数値はもっと伸びる。取材時は男3人、やや飛ばしめで走って約15〜16km/リッターだった。5,640,000円(アウディ コミュニケーションセンター TEL 0120 598 106)。
巡礼地:新潟市秋葉区文化会館
設計/新居千秋都市建築設計。2013年竣工。新居氏はこれまで音響設計の老舗〈永田音響設計〉と組み全国で14のホールを手がけている。ここでは最新技術で音の反射を可視化、ホール内装をコンクリートだけで仕上げ「世界一低音の良い」(本人談)響きを得られた。●新潟県新潟市秋葉区新栄町4-23 TEL 0250 25 3301。