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【本と名言365】インゲヤード・ローマン|「美しい物がたくさんあるというのは…」

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November 4, 2023 | Culture | casabrutus.com

これまでになかった手法で、新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。スウェーデンを代表するデザイナーであり、陶芸家としても知られるインゲヤード・ローマン。シンプルでピュア、使い手を限定しないローマンの作品が生まれる背景には一つの心がけがありました。

インゲヤード・ローマン/デザイナー、職人

美しい物がたくさんあるというのは、すばらしいことですよね?

スウェーデン政府からプロフェッサーの称号を与えられ、国内で最も知名度の高いデザイナーの一人でありながら、インゲヤード・ローマンは「アーティスト」ではなく、「デザイナー/職人」というステートメントを大事にする。数多くの賞に輝き、地位と名誉を得ても、“産業とクラフトの境界”でものづくりをするという姿勢を崩さないのだ。

2018年、日本で初めて本格的な展示を開催した時のインタビューで「私は日用品を作りたい」と語っていたローマン。以前所属していた会社で限定商品を出す時も、なるべく1000個は作るようにしていたという。その意味を問われると、「美しいものがたくさんあるというのは、すばらしいことですよね? 誰かの家を訪ねて、私と同じ物を持っていると、友情や喜びの感情を覚えます。同じものが好きなのですから」と答えた。数を限定することで、生産コストが一つずつの商品価格にのしかかる。ものが使われて初めて自分のデザインの価値が生まれると感じるローマンは、「私が作ってきた物はすべて量産が可能」と言い、一点ものや限定品を作るのではなく、手を伸ばせる価格で多くの人に美しいものを届けることを第一に考えてきた。

アーティストであれば、生産数を限定し、希少性や特別感を演出することも大事なのかもしれない。でも、ローマンは違う。イケアとのコラボレーションや有田焼の窯元とタッグを組んだ「2016/」、木村硝子との協業など、安定した質の製品を大量に生み出せるプロジェクトに積極的に参加して、デザイナー/職人としてのものづくりを明らかにしてきた。シンプルで普遍的なデザインを心がけて生まれたものたちは、使い手を限定しない。「家で毎日使っています」と言われると嬉しくなるというローマン。棚の中で大事に飾って眺めるよりも、使うことで彼女の作品はさらに輝きを増す。

2018年、日本で初めて本格的に行われた展覧会の図録。美しい代表作の数々の写真と本人のインタビュー、彼女を取り巻く人々のコメントも収録。『インゲヤード・ローマン展』編集・中尾優衣ほか 東京国立近代美術館 2,200円

インゲヤード・ローマン

1943年スウェーデン生まれ。スウェーデン、イタリアで学び、1967年より陶業製作を始める。普遍的でシンプルなフォルムが多くの人から支持を得る。1995年にスウェーデン政府よりプロフェッサーの称号を、1998年にスウェーデン王室よりプリンス・オイゲン・メダルを授与される。

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