November 1, 2023 | Art, Architecture, Travel | casabrutus.com
間近に八ヶ岳や南アルプス、少し遠くに富士山をのぞむ山梨県北杜市は、クリエイターの移住先としても人気のエリア。そんな同市に点在するいくつかの施設を舞台にした『山梨国際芸術祭|八ヶ岳アート・エコロジー 2023』が、11月4日からはじまる。
芸術祭の中心地は、その昔「清春」と呼ばれていた地域にある〈清春芸術村〉だ。元学校の敷地に、エッフェル塔にその名を遺す建築家ギュスターブ・エッフェルが設計した〈ラ・リューシュ〉や、安藤忠雄設計の〈光の美術館〉など複数の施設や作品が点在するこの”村”内に、会期中さまざまな現代アート作品が展示される。
芸術祭のコンセプトは「xenogender 〜 豊かな分断[フォッサマグナ]」。フォッサマグナはラテン語で「大きな溝」を意味し、日本列島を大きく分断する地質学的な溝だ。八ヶ岳および北杜市も、このフォッサマグナによる複雑な地形のただなかに位置しており、そうした複雑さが産んだ多様かつ魅力的な自然を有している。そんな自然の恵みにより、有史以来のこの一帯で豊かな文化が醸成されてきたことは、縄文の遺跡遺構が数多く出土していることからもよくわかる。
「八ヶ岳アート・エコロジー 2023」のコンセプトは、この“分断(=フォッサマグナ)”を抱えながらも豊かな生態系を築いている八ヶ岳から、多様と連帯を両立するヒントを得ることができないか……との問いからたてられたもの。その根もとには、国家や思想、ジェンダーなどの細分化と分断こそが、現代社会に閉塞感や孤独感をもたらしているとの問題意識がある。分断が生んだ豊かなゼノジェンダー(男女に限らず非生物や動植物などとの関係性を性別に取り込む思想)を感じ、分断を肯定的に受け入れ、豊かな環世界を構築すること。そんなメッセージを含んださまざまな芸術作品や音楽などのクリエイションが、芸術祭会期を通して展開される。
ひと足先に、参加作家の作品をチラ見してみたい。
神話や性、ジェンダー、ナルシシズム、トラウマといったテーマをユーモラスな誇張を交えて表現する美術家で映像作家の高田冬彦は、〈清春芸術村〉内、谷口吉生設計の〈白樺美術館〉で、性や自他、動植物をテーマに展示する。
「土地の記憶」をテーマに作品を手掛ける吉野祥太郎は、〈清春芸術村〉内の谷口吉生設計による〈ルオー礼拝堂〉で展示予定。作品を通じて過去と現在、文化と自然、教育と宗教、歴史と未来のつながりを強調し、現在の自分たちと過去とのつながりを深く共有したいと話す。
そのほか、同じく北杜市にあり、美術館建築も作品も魅力的な〈中村キース・ヘリング美術館〉や、池の上に建てられた能舞台が目を引く〈身曾岐神社〉、そして1000平米超の巨大工場をリノベしたアート施設〈GASBON METABOLISM〉などでも、さまざまな作品体験が提供される予定だ。
出展アーティストには先記の2作家のほか、Yoshirotten、渡辺志桜里+永山祐子、泉太郎、落合陽一、SIDE CORE / EVERYDAY HOLIDAY SQUAD、磯村暖、 磯崎隼士、加々見太地、SCAN THE WORLD、宮原嵩広、村田美沙、山田リサ子、脇田玲らが予定されている。