October 15, 2023 | Culture
これまでになかった手法で、新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。安藤忠雄や杉本博司らも影響を受けたという谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』。そこで説かれた日本独特の美意識とは。
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美と云うものは常に生活の実際から発達するもので、暗い部屋に住むことを余儀なくされたわれわれの先祖は、いつしか陰影のうちに美を発見し、やがては美の目的に添うように陰影を利用するに至った
道徳や常識よりも美を重んじ、緻密で高度な描写で数多くの名著を生み出した谷崎潤一郎。東京に拠点を置いていた活動初期は西欧的なスタイルで執筆をしていたが、関西に移住後、伝統的な日本語による美しい文体を追求。やがて、暮らしの中の美にも言及するようになる。
1933年に発表した『陰翳礼讃』は、日本の伝統的な生活に宿る陰影という概念に着目したエッセイだ。陰影とは光の存在を微かに感じる薄暗がりの状態であり、その場所にこそ趣があることを身近な例を挙げて紹介している。たとえば、ガラス戸から積極的に光を取り込む西洋建築に比べて、障子から漏れる淡い光と床の間によって陰影を作り出した日本建築に深みを感じること。明るい電灯の下で白く光る陶器に盛り付ける西洋の食事よりも、蝋燭の灯りにぼんやり照らされた漆器の椀に五感が研ぎ澄まされること。つるつるとしたタイルよりも翳りを帯びた砂壁に囲まれた空間の方が心が休まること。闇を排除するのではなく、陰影と共存することで奥深い美の世界が紡がれてきた、と谷崎は感じていたのだ。流麗な言葉で綴られた『陰翳礼讃』は、便利で合理的な生活によって失われつつある陰の美しさを再確認させてくれる。
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