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小さな電車で、トラフの頭の中をのぞいてみませんか?

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November 4, 2016 | Architecture, Design | casabrutus.com | photo_Kayoko Aoki text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano

大きなテーブルにいろんなものが載っていて、その間を鉄道模型が走っている。この小さな電車に乗ると、トラフの頭の中を旅することができるのだそう。そんな楽しい展覧会を、トラフ建築設計事務所の二人に案内してもらいました。

中庭で、魚に見立てた岩に腰掛けるトラフ建築設計事務所の二人。右が鈴野浩一、左が禿真哉。背景の青いカーテンは工事現場で使う養生シートにプリーツ加工したもの。テキスタイルデザイナーの安東陽子とコラボレーションした。
指輪などのプロダクトや家具、ホテルのリノベーション、展覧会の会場構成から住宅などの建築まで守備範囲が広いトラフ建築設計事務所。彼らの作るものはなぜこんなにチャーミングなんだろう? その秘密を一挙公開してくれるのが、普通の建築展とはちょっと違うイメージの個展だ。
いろんなものがぎっしりと載った大テーブル。小さなアミューズメントパークのよう。
展覧会のタイトルは『トラフ展 インサイド・アウト』。裏返し、といった意味だ。トラフの頭の中を裏返しにして全部見せます、という思いが込められている。でもどうやって? 実は、ギャラリーに入ると出迎えてくれる大テーブルがその“頭の中”なのだ。テーブルには建築模型ばかりでなく雑貨やおもちゃ、板きれ、植物など、建築に関係あるの? と思えるようなものまである。でも、それが彼らの建築やプロダクトのもとなのだそう。

「僕たちのオフィスのデスクをそのまま持ってきた、というコンセプトです。進行中のプロジェクトの模型やインスピレーションを受けたもの、使ってみたい素材、そしてアイデアになる前の“何か”が並んでいます」
かわいいNゲージの鉄道模型“トラフ号”が走ってます。
そのいろんなものの間を、小さな鉄道模型が走っていく。この電車を追っていくと彼らの仕事が時系列に沿って見られる仕組みなのだ。“トラフ号”と呼ばれている電車はオブジェの間や家の模型の中を通り抜けながら、ゆっくりと走っていく。なんだか旅情たっぷりで、テーブルの上の小さな世界を旅しているような気分が味わえる。
コンクリートの型枠に使う塗装合板に植物の種が載っている。これがトラフの頭の中で変換されて、家具や建築になる。
テーブルに並んだものを一つひとつじっくり見ていくと、これが本当に面白い。

「いろんな色の小さな合板はコンクリートを流し込むときの型枠なんです。コンクリートの表面が滑らかになるように塗られているのですが、色がきれいなのでとっておきました。ドーナツ型のサッカーコートは四角いフィールドをドーナツ状にしたもの。当たり前だと思っていたことでも、ちょっとした操作で印象ががらっと変わるのがわかると思います。《soft block》はブロック塀を模したクッション。硬いはずのブロック塀が柔らかい、見た目を裏切るプロダクトです」

説明はまだまだ続く。会場では解説が書かれたハンドアウトを配っているので、読みながら見るのがお薦めだ。
線路はエルメスのウィンドウディスプレイの試作や《AAスツール》(石巻工房)の間を抜けていく。テーブルの下にあるモニタにはメイキングのビデオが。
テーブルは中庭へと続いていき、オーストラリアに生えている木も展示されている。

「オーストラリアでは自然発火による山火事が多いんですが、この木は火事になると種を飛ばして子孫を残そうとするんです。そんなことをDNAに取り込んでいるのってすごいな、と思って」

こういったものがトラフというブラックボックスを通ると、楽しい建築や家具になって出てくるというわけだ。そんなブラックボックスがある彼らの頭の中ってどうなっているんだろう? ますます不思議な気分になってくる。
中庭を見下ろしたところ。青空の下の、気持ちがいい休憩所になっている。
中庭には、彼らが“休憩スペース”を作ってくれた。トラフがデザインしたテーブルや椅子でのんびりできる。そこに鎮座している岩は、いつもとは違った表情だ。よく見るとかわいい目がついている。頭上には白い布が浮かぶ。

「この岩を展示に取り込む人って意外と少ないんです。僕たちはこれを使いたいな、と思って見ているうちにふと、『目を描いたら魚に見えるんじゃないか』って思って、目を入れてみました。上の布は水面みたいな感じです。防虫ネットを転用したのですが、夜は影がきれいですよ」

日本庭園では岩を亀や鶴に見立てることがある。そんな見立ての伝統を取り入れたトラフらしい空間で、ちょっと一休みしていこう。
4階で上映されている、鉄道模型の車載カメラで撮った映像。3階のテーブルが小さな街のように見えてくる。
4階で流れている映像は、3階の大テーブルを走る鉄道模型の“車載カメラ”で撮ったもの。ところどころで止まって解説が入る。ナレーションはトラフの二人だ。次々と展開していく景色が楽しくて、鉄道ファンでなくてもずっと眺めてしまう。

「虫の視点を拡大しました。トラフの頭の中を自動運転しているような感じです」
4階で映像を見てから3階のテーブルを見ると、また見え方が変わってくる。なので3階→4階→3階と見るのがお薦め。
電車が建築の模型の中やそばを通ると、まるで自分たちがミクロのサイズになってテーブルの上の小さな街を歩いて行くような気持ちが味わえる。面白いのは彼らのインスピレーション・ソースになっている雑貨やおもちゃも建物に見えてくることだ。

「電車がコンクリートブロックの穴の中を通るとトンネルみたいに見える。テーブルも都市や建築のサイズになる。すると、《AAスツール》(石巻工房)をそのまま大きくすると建築になるな、といったアイデアが浮かぶんです。小さいスケールから発想して都市をデザインする。または大きなスケールから小さなものを考える。僕たちはこうしていつも“スケールの横断”をしているんです。見る人にもそれを体感してほしいと思ってこんな仕掛けを考えました」

もののサイズにかかわらず、フラットな視点で考える。彼らのチャーミングなデザインはこんなやり方から生まれてくる。“ミクロの大冒険”が、トラフの秘密を少しずつ教えてくれるのだ。
2階ブックショップではトラフと中村至男の“本棚”が。彼らの著書や愛読書が並ぶ。
今回の展示は〈TOTOギャラリー・間〉がある3〜4階だけでなく、他のフロアにも広がっている。2階のブックショップではトラフの本棚と、書籍のデザインを担当した中村至男の著書が並ぶ。ライブラリーには《コロロデスク》(イチロのイーロ)が、1階と地下1階には水をテーマにしたオリジナルデザインの新作を含む《空気の器》(かみの工作所)がインスタレーションされている。こうして、さりげなくビルをジャックしているのが面白い。
1階と地下1階は新作を含め、900個の《空気の器》がインスタレーションされている。風に揺れる様子も、繊細な影もかわいい。
最後に1階のドアを出るときに「100」というプレートが目に入る。この展覧会では展示されているものが1から順番にナンバリングされている。100番目の作品はどこにあるんですか?

「ドアはガラスなので、『100』のプレートの向こうに外の景色が見えるはず。展覧会を見たあとはいつもの景色も見る目が変わるのでは、というメッセージです」

そんなしゃれた“お土産”もやっぱりトラフらしい。展覧会タイトルの“インサイド・アウト”には“視点を裏返す”という意味も込めている。見慣れた風景もちょっと違って見えるから、展覧会の帰り道も、帰ったあとも楽しい展示だ。
こうやって見ると本当の大きさがわからなくなる。トラフがスケールを行き来しながらデザインしていることが実感できる。
《空気の器》のスタディ。細かい切れ目を手で切っていたので、ひとつつくるにも一日がかりだったそう。最終的な形に行き着くまでに切れ目の長さや幅など、たくさんのバリエーションを試していた。
2004年にトラフを設立してから今までのカレンダー。厚みが10年以上の歴史を物語る。

『トラフ展 インサイド・アウト』

〈TOTOギャラリー・間〉
東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F
TEL 03 3402 1010。〜12月11日。11時〜18時。入場無料。月曜・祝日休(ただし11月3日はのぞく)。公式サイト

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