October 13, 2016 | Fashion, Architecture, Travel | casabrutus.com | photo_©Frederik Vercruysse
text_Chiyo Sagae
その薄暗く無音の空間に足を踏み入れた瞬間、ここはどこ? と思わず自問してしまう。アルミニウム、ステンレス、パイプ、配線… 無機質なマテリアルで構成された不思議な装置の圧倒的な存在感が、訪れる者を一気に地上の時間と空間のしがらみから解き放ち、まるで宇宙空間に連れ込まれたかのインパクト! これが、パリのエルメス フォーブル・サントノーレ店に出現した「オート・ビジュトリー」(ハイエンド・ジュエリー)やシルバー&ゴールドジュエリー新作コレクションの展示空間だ。
ジュエリーを納めた12のボックスが円形に配置された空間。薄暗い空間にぽつんと浮かぶボックス内の宝飾品に観る者の意識は自然に集中する。
衝撃的ともいえる異色のインスタレーション内に安置されたのが、エルメスのジュエリーデザインを手がけるピエール・アルディの12の新作ジュエリーコレクション。貴石の数々やパール、ゴールドの輝き、そして精巧で完璧な技術… なによりその神秘的なデザインに息を飲む。モダンである。
が、古い新しいといった人の時間感覚を遥かに超えた(無限の時を一瞬に凝縮したかのような!)地球の営みの奇跡を宿す素材の崇高さをデザインに昇華する。Continuum(=時の連なり)と名付けたこの展覧会のために、建築家・デザイナーのディディエ・フォスティノを抜擢した由縁がここにある。
《オンブル・エ・リュミエール》
装置の名は〈Cosmogonie〉。宇宙の創世・進化の他に、世界や人の誕生神話を意味するという。円形に配されたジュエリーを納める12のボックスが外に開き、その配置は「時」を現す。ジュエリーの輝きとの視覚的対位を狙った剥き出しのメタル素材、絡み合う配線。さらに、通常ではあり得ない後方を廻る白く無機質な印象の光。光量の緩やかな強弱をプログラムされたこの光は、まるで装置自体が呼吸するかのような錯覚をもたらす。
ボックスを円形に配した装置の内側から、ボックスの背面を臨む。ネオン灯を支えるパイプ、配線、「モノリス」を彷彿させるボックスの連続など、どこか宇宙船をイメージさせる。
創世記の地球を物語る貴石の神秘をかたちにしたアルディのコレクション。それに呼応し、宇宙を彷彿させたフォスティノの装置。前代未聞の展示に違いない。が、これを実現させたエルメスの破格のクリエィティビティにシャポー(脱帽)!
〈Hermès〉
24 Rue du Faubourg Saint-Honoré, 75008 Paris. 会期終了。この後、アジア諸国のエルメスで巡回展示予定。